2006 spring

村田製作所
企画・管理グループ 総務部 広報課
課長 関口 晴巳 さん

 インタビュー(1)

 村田製作所は,1944年にセラミックコンデンサの開発からスタートし,その後も独創的な製品を開発し続けてきました。現在,コンデンサの世界シェアトップを誇る世界的な電子部品メーカーです。
 今回は,村田製作所の技術の結晶である自転車ロボット「ムラタセイサク君」の製作秘話をはじめ,企業における環境への配慮や社会への貢献の取り組みについて,広報課の関口晴巳さんにお話を伺いました。

(聞き手:編集部 岡本)

 

■ムラタセイサク君■

── 昨年9月にムラタセイサク君を発表されてから,すごい反響ですね。

関口晴巳さん (以下,関口)「正直言って,ここまで反響が大きくなるとは思っていませんでした。予想以上の大人気で,嬉しい悲鳴をあげています。当社は,15年前に初めて自転車ロボットを作って,そのときから根強い人気はありましたが,今回,新作を発表したところ,テレビや新聞などのマスコミはもとより,自転車の専門誌から取材を受けたり,オーストラリアから反響があったり,思いもしなかった方面 から問い合わせをいただいて驚いています。皆さまからの「ムラタセイサク君を見たい」というリクエストにはできる限り応えていきたいんですが,なかなかすべてに対応しきれないのが残念です。現在,ムラタセイサク君は2台しかなく,操作するスタッフの都合もあるので,双方のスケジュールを調整しながら対応しています。」

── ムラタセイサク君の操作は難しいんですか?

関口「基本的にはパソコンで指示を送って操作しますので,難しいというわけではありません。ただし,うまく走らせるには,そのときの状況に応じて微妙な調整が必要になってきますので,扱いに慣れている専門的なスタッフのほうが確実ですね。ときには失敗もあって,転んだりするんですよ。」

── 子ども達の反響はどうですか?

関口「当社から子ども達へのアプローチは,今年度の課題として位 置づけています。私達は電子デバイスの製造を仕事にしていますが,子ども達に製品を見せるだけでは興味や理解の面 でなかなか難しいと思いますので,ムラタセイサク君をきっかけにして,理科教育に何らかのかたちで貢献したいと考えています。このことは,当社だけでなく,電子機器業界全体の課題でもあり,現在,その方法を模索している段階です。
 子ども達がムラタセイサク君を見る機会の一つに,イベントがありますね。昨年の10月に東京の幕張メッセで開催された『CEATEC JAPAN』(電子部品・デバイスが中心の国際展示会)で実演したときは,最終日が土曜日だったため,大勢の子ども達の姿も見られました。また,昨年の11月に富山で行われた『ジャパンロボットフェスティバル in TOYAMA』でも実演し,ここでも大変好評でした。」

── 今回のムラタセイサク君は,10年前と比べてかなり性能的に向上しましたね。

関口「そうですね。」

── ロボットには素人の私達が見ても,ムラタセイサク君にはすごい技術がつまっていると思いますが,製作側から,今回の特長を教えてください。

関口「寸止めやバックの機能も備えていますが,何といっても“不倒停止”ができることですね。自転車に乗ったムラタセイサク君が微動だにせず止まっている姿は,実際に見ると,そのすごさを実感できます。初代は走るだけでしたが,自転車は速く走れば安定します。ゆっくり走るのが難しく,ましてや倒れずに止まるのは高度な技術を要するのです。」

── “不倒停止”の成功は,使われている電子部品の性能向上によるものですか?

関口「部品の性能向上もありますが,要素としては倒れない仕組みを追究したことが大きいですね。“不倒停止”は,倒立振子の原理をもとに構造やプログラムを開発し,実際に搭載しましたが,初めはなかなかうまくいきませんでした。開発担当者である生産技術スタッフにより,製作には2〜3か月を要したそうです。その期間,それこそ休み返上で製作にあたり,ジャイロセンサ(★1)を取り付ける位 置など,開発するなかで試行錯誤を繰り返し,さまざまな改良を重ねてようやく完成したのです。“不倒停止”の核となるジャイロセンサは自社製品を使い,その制御システムも自社で開発しています。」

(★1)ジャイロセンサ:角速度や傾きを検出するセンサ。このセンサにより,どれくらいの速さでどれくらい曲がったか,どれくらい傾いたかがわかる。

── すべて自社で開発するのは大変でしょうね。

関口「電子部品の開発には,最先端の技術が求められます。それをほかの会社に依頼していたのでは後追いになってしまうので,当社では,製造だけでなく材料開発も生産ライン設計も行っています。つまり,最先端の技術は,すべてを自社でまかなわなければならないのです。今回のロボット開発は,それらの技術をフルに活用しました。」

── ムラタセイサク君は,今後,どのような進化をとげるのでしょうか。

関口「複数をシンクロさせようとか,ウィリーさせようとか,空を飛ばすのは少し無理かなとか,いろいろな案が出ていますが,まだはっきりとは決まっていません。バッテリーの改善も課題です。ムラタセイサク君は,もともと当社の製品・技術を見せたいという発想で作られており,ASIMOのようなヒューマノイドを目指しているのではありません。それでも,なぜか人間らしさが出ているのは不思議ですね。外観を設計する際,小学校3〜4年生の男の子という設定にしましたが,開発するなかで,搭載機器の位 置が変わったり,いろいろな機器を背負わせることになったりして,当初の設計とは少し見た目も変わりました。」


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