2008 spring

立命館小学校
教頭 荒木 貴之 先生
 インタビュー(1)

 立命館小学校は,2006年に京都市北区に開校した新しい小学校で,国際社会で活躍する次世代のリーダーを育成することを念頭において,京都市伏見区にある立命館中学校・高等学校と12年間一貫教育に取り組んでいます。
 今回は,立命館小学校で新しく「ロボティクス科」を立ち上げ,ロボット教育で「サイエンスを重視したものづくり体験学習」を追究されている,教頭の荒木貴之先生にお話を伺いました。

(聞き手:編集部 岡本)

 

■世界のリーダーの育成をめざして■

── よろしくお願いいたします。本日は,立命館小学校全体がめざす教育とその中で位 置づけられるロボット教育,ロボティクス科の内容,企業とのかかわりをふくめた学校教育の在り方,という3点について伺いたいと思います。
 まず,立命館小学校の教育理念や育てたい子ども像について,そしてロボット教育が行われるに至った経緯について,お聞かせください。


荒木貴之先生 (以下,荒木)「そうですね。今後,どんどん日本は困難な世の中になると思っています。おそらく少子高齢化は世界一のスピードで進んでいくでしょうし,環境問題もあります。将来,いろいろな国が直面 するであろう課題を,日本は真っ先に解決していかなければいけない『課題先進国』なのです。日本で解決の糸口を見つけ出すことが,世界でこれから起こりうる様々な問題解決に先鞭をつけることになるのではないでしょうか。いま,日本は人口がどんどん減っています。日本人だけでは成り立たなくなるような世の中になるかもしれません。海外に出て活躍する人も増えるでしょう。これから国際化はどんどん進んでいくと思います。これには,日本国内の国際化もありますし,日本人が海外に出ていく場合もありますが,そんな国際社会において,使命感をもってリーダーとして活躍する人材を育成したいというのが,立命館小学校のねらいです。」

── そうしますと,中期的に50年後100年後の日本の姿を見据えて,より国際化が進んだ社会で世界のリーダーとしての資質を育てたいということですね。

荒木「はい。非常に不確定な世の中になってきていますから,一生涯,学び続けられる人間を育てなければなりません。そこで,小学校で何をやればよいのかと考えると,やはり,学ぶことの楽しさや,できることの喜びを存分に味わわせることができるのが小学校だろう,と私たちは考えています。そういった成就感や成功体験は,人間が成長していく過程で非常によい効果 をその個人に及ぼすでしょう。
 これまでは,学力は学力,人間性は人間性と,何か別物のようにとらえられてきたところがありましたが,私たちは学力を身につけさせることを通 して,人間を育てていきたいと考えています。リーダーとして活躍するためには,物事を多面 的にとらえたり,論理的に考えたりする力が必要になります。そして,自分のためだけでなく,社会のために自分が身につけた力をつかう使命感が求められます。そのために,学校が取り組まなければならないことは何か。確かな学力を身につけさせ,社会に貢献できるような人材を育成すること,それがこの学校の使命ではないかと思っています。」

── 学力というときに,ペーパーテストに強い知識重視の学力観もあるでしょうし,また,先生がおっしゃられたような能力重視の学力観もあるでしょう。立命館小学校においては,知識だけでなく,能力や,社会的に貢献する態度といったものも重視して取り組まれていると考えてよろしいですか。

荒木「そうですね。例えば,ロボットカリキュラムでいえば,五つの領域からアプローチをしていて,その一つに社会倫理を位 置づけています。これまで人類が科学を運用してきて,戦争であったり,事故であったり,いろいろ不幸な出来事がありました。これからは,科学を運用するうえでの倫理観がもっと重要視されなければいけないと考えています。そこで,今年度であれば,ロボットカリキュラムの最終段階としてレスキュー・ロボットの製作を行いました。この学習を通 して,人の幸福のために機械やロボットを製作する,人の幸福のために科学を運用する,という意欲や態度を養うのが最終目的です。単に知識だけではなく,人の幸福のために学ぶことが大切でということを,しっかりと自覚させたいと考えています。」

── 社会倫理まで扱うのは面白いですね。科学のもつ力の大きさが人間を幸せにも不幸にもしてきたという歴史をふまえると,そうした教育は重要なのでしょうね。

荒木「もちろんそれは,科学だけではないと思います。学ぶことが,結果 的に自分のためだけではなく,まわりの人をも幸せにしていくんだという『学びの意義』を子どもたちに自覚させることができれば,いま以上に自ら学び続けることができると思います。現在,国際的な学力調査で学力そのものが低下していたり,学ぶ意義や面 白さが非常に低いパーセンテージになっていたりするのは,『学びの意義』が薄らいでいるからではないかと思います。」

── 学ぶことの意義を子どもたちにとらえ直してもらうのが目的で,ロボット教材を取り上げたということですか。

荒木「学びたいという欲求の源泉は知的好奇心にあると思います。子どもたちはロボットに飛びつきますよ。もともと人間は,ものづくりの楽しさやものづくりに対する興味・関心をもち合わせていると思います。ただし,ロボットを作るだけで終わらせるのではなく,最終的に使命感を育てたいと考えていましたので,被災者を救うレスキュー・ロボットを開発するという設定で『学びの意義』につなげていきたいと考えています。」

── ロボティクス科という教科は,サイエンスとものづくりが融合した教科だとお聞きしましたが,ものづくりには,純粋な工作の楽しさのほかに,手先を動かすことによる効果 もあるようですね。

荒木「これは,経験知の部分だと思いますが,例えば,非常に集中して物事に没頭していると,精神的に落ち着くようなことがありますし,思いがけない作品ができてしまう意外性もあります。ですから,手指を動かす活動が脳の活性化によい効果 をもたらすだろうという経験的な感触はありました。また,この学校の研究顧問は東北大学の川島隆太教授ですが,彼の研究によれば,料理をしたり,簡単な計算を繰り返し行ったり,音読をしたり,そういう場面 で脳の活性化がみられるそうです。私自身も,ものづくりが脳の活性化と関係があるだろうと推測しています。」

── 実際にロボティクス科に取り組まれて2年が経ちましたが,立命館小学校が子どもたちに身につけさせたい学力に照らして,どのような手ごたえを感じていますか。

荒木「国際社会の中でリーダーとして活躍する人材を育成すると言いましたが,それを実現するために,私たちは,四つの教育の柱を考えています。それらは,『確かな学力形成』『真の国際人を育てる教育』『豊かな感性をはぐくむ教育』『高い倫理観と自立心を養う教育』です。学力形成については,プログラミングを通 して,着実に論理的思考力が育ってきています。また,4〜5人でチームを組んで,プログラミングやデザイン,オペレーションを分担しながらレスキュー・ロボットを開発しますので,チームワークやリーダーシップも育っています。デザインでは,美的なデザインや,機能的なデザインを取り入れた作品が生まれるなど,豊かな感性の萌芽を感じます。そして,人を救助するために科学技術を運用するという倫理観も育っていると思いますので,学校としてねらっているリーダーの育成に関連付けた教育ができていると思います。」

── お話を伺っていると,ロボティクスは,立命館小学校がめざす教育そのものですね。ほとんどの教育の柱がオーバーラップしているので,まさに素晴らしい教科だと感じました。

 


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