■ロボティクス科が拓く新しい教育■
── 次に,ロボティクス科について具体的にご紹介いただきたいと思います。いまは子どもたちが4年生までしかいないのでカリキュラムも4年ですが,将来的には6年間のカリキュラムになるのですか。
荒木貴之先生 (以下,荒木)「小学校5年生になると,4年生までの学習内容よりも難易度が高くなり,私たちはそこに『学習の壁』があるのではないかと考えています。また,中学校2年生と3年生とを比較すると,そこには『成長の壁』があるのではないかと考えています。そこで,私たちは,それらの『学習の壁』『成長の壁』に着目して,小・中・高の6・3・3という区切りを4・4・4の3つのステージに分けて考えることにしました。5年生から始まるセカンド・ステージは,基本的には自学・予習をベースにした高密度カリキュラムを展開します。自分から課題意識をもって学習に取り組むことで,それぞれの得意分野・専門性を高めていきたいと考えています。
そこで,5年生以降のロボティクスについては,いまは二つ考えていて,一つは,既存の教科の中でロボットを使った実験や観察を位
置づけたい,もう一つは,何人かの有志が集まって国際的なロボットの大会をめざした活動を行えないか,そのような二本立ての活動を考えています。」
── そうすると,5年生以降は,独立した教科というよりも,理科の中で扱ったり,子どもの自発的な活動として扱ったりすることになる予定なんですね。
荒木「はい。あとは,機能的なデザインや,ヒューマン・インターフェイスなど,デザインにかかわる能力も養うことができますので,図画工作科の発展として扱える部分もあると思います。これまでクロスカリキュラムでやってきましたが,それが教科の中に発展的な課題としてもどってくるようになると思います。」
── 基礎・基本の徹底的な習得がファースト・ステージのねらいであれば,ロボティクス科は,基礎学力をつける意味で一定の役割を果
たしたと考えればいいんですね。
荒木「これまでの学校教育において,高い能力をさらなる高みにもっていくことはなかなか実現できていなかったと思います。達成水準が十分でない子どもを支援することと同時に,能力の高い子どもをさらに伸ばしていくという視点も大事だと思います。それは,なかなか通
常の授業で実現することは難しいので,課外活動などでさらなる能力の伸長を行いたいと思っています。」
── 課外活動も重要な役割を担っていますね。現在のところ,ファースト・ステージに位
置づけられているロボティクス科ですが,その内容を拝見しますと,クリケット(小型コンピュータ)を使用したり,スクイークというソフトウェアを使用したりして,ものづくりを基調にサイエンスの要素を入れてありますね。カリキュラムの作成に際してどのようなご苦労がありましたか。
荒木「立命館小学校だけの取り組みで終わりにしたくないという思いがありました。最初はロボットでサイエンスとものづくりの両方が実践できるという発想でしたが,これを一般
化していくには,既存の教科の内容やねらいに即したかたちで翻訳しなければ普及は難しいと感じました。そこで,一般
化をめざして,理科・生活科・図画工作科等の各教科との関連づけを行っていきました。例えば,理科では,梃子や滑車などのいわゆる道具の内容や電気回路の内容をロボティクスで体感的に理解できるといった,既存の学習指導要領の内容やねらいに関連づけることができます。ロボティクスという枠組みで各教科の内容やねらいを効率的に実現できるように工夫しました。」
── 学校教育においては,思考力や表現力の育成も重要ですし,もちろん態度も評価されます。そうした観点からみれば,ロボットは非常に優れた教材だと思います。また,一般
の理科の学習でもグループごとに学習するというスタイルが多くとられていると思いますが,通
常の学習以上に,役割分担が明確になり,グループを統率していく能力も育成されるように感じます。内容だけでなく,全体の目標からみれば,学習指導要領に合致しているようにも見えますが。
荒木「4年生のレスキュー・ロボットは,JST(科学技術振興機構)のサイエンス・パートナーシップ・プロジェクトの指定研究になっています。小学校でのロボット分野での研究は本年度がはじめての採択だったのですが,そういった国レベルでの動きにも合致した取り組みだと思います。ただ,指定を受けたからには,どの学校でも実現できるような実践に取り組まなければならないという思いはあります。」
── 初めのお話で,日本が世界の問題解決に先鞭をつけていかなければならないということでしたが,学校教育の世界にそのお話を転じれば,日本の教育の先鞭を立命館小学校がつけていくということになりますね。
荒木「この学校には全国から教員が集まっています。それぞれが,こうしたことをやってみたい,こうすれば教育がもっとよくなる,という思いをもってこの学校に集まってきています。もちろんこの学校に通
っている子どもたちのために精一杯がんばるのは当然ですが,それだけではなく,例えば,先日も公開授業研究会を行い,全国から先生方にお集まりいただいて分科会を行いました。私たちの実践を全国の先生方の実践に取り入れていただき,その結果
,学んだ子どもたちが元気になって生き生きと学習に取り組むのであれば,それがいちばん嬉しいことですね。」
── 教育は公の性格をもっているものですし,立命館小学校の取り組みが波及効果
をおよぼして日本の教育全体の質が高まっていくのであれば,それがいちばんよいでしょうね。
荒木「いまは,公立だから私立だから国立だからという時代ではないという気がします。こんないい実践があるよ,といろいろな学校が実践を公開し合って我が国全体の教育を推進できれば,まだまだ日本にも挽回のチャンスがあると思います。そうでなければ,冒頭に『課題先進国』だと言いましたが,その課題を乗り切れる人材を育てていくのは難しいでしょう。」
── 将来の日本の姿を見据えて,かなり危機感をもって取り組まれているようにお見受けします。一方で,子どもたちが生き生きと学習している姿や,子どもたちに学力が身についていく姿を実際に目の前にしていらっしゃると思いますが,明るい未来はあるのでしょうか。
荒木「子どもたちの学びの姿をみていると,非常に熱中していますし,なかなか面
白い発想も出ていると思います。例えば,2年生であっても,歯車を組み合わせることで,縦の動きを横の動きにしたり,滑車を組み合わせて定滑車や動滑車の特徴を体感的に知るなど,確実に成果
が出てきています。子どもたちの姿を見ていると,危機感というよりは,元気をもらっている面
があるかもしれませんね。教師というのは,人材づくりの最前線にいるのですから,将来を見据えた夢や希望が語れないといけませんし,そうしたビジョンをもって職務にあたらなければならないと思います。」
── そうした職務に対する姿勢は直に接すれば感じるものだと思いますので,立命館小学校の熱意を研究授業などで全国の先生方に感じ取っていただくのも非常に勉強になるでしょうね
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