2009 autumn
インテル株式会社
インタビュー(1)

教育プログラム推進部 部長
柳原 なほ子 さん


 インテルは,1968年の創業以来,半導体を通じて人々の生活や仕事をさらに豊かにする技術や製品を開発し提供してきた,世界最大の半導体メーカーです。
 今回は,インテルが取り組んでいる幅広いCSR活動の中でも,とくに教育分野における内容に絞って,インテル株式会社 教育推進プログラム部の柳原さんにお話を伺いました。(聞き手:編集部 岡本)

 

■ インテルの教育支援プログラムとは ■

── きょうは,よろしくお願いいたします。柳原さんは,教育プログラム推進部に所属されていますが,どのようなことをされているか,初めにお聞かせください。

柳原なほ子さん(以下,柳原)「よろしくお願いいたします。私が担当しているのは,『インテル(R)教育支援プログラム』(http://www.intel.co.jp/jp/education/)という,教育を通した社会貢献活動で,『21世紀型スキル』の育成を目指しています。この『21世紀型スキル』という言葉は,日本ではまだあまり知られていないようで,じつは先日,東京都の10年次研修で十数名の先生方に企業体験をしていただいたので,そこで先生方に伺ったところ,やはり認知されていませんでした。
 インテルは,みなさんご存知のように,パソコンの頭脳といわれるCPUを製造している会社で,いまから41年前に設立されました。本社はアメリカのカリフォルニア州,サンタクララにあるんですが,いまや約50か国で事業を展開していますので,アメリカの会社というよりグローバルな会社だといえます。そして,テクノロジーを使って,世の中をより便利に,人々の生活をより明るく幸せなものにしていくことがインテルの使命であると考えています。これを実現させるには,常にテクノロジーのイノベーションを起こしていくことが求められますので,まず,イノベーションを起こす人材の育成が必要になります。また,テクノロジーがあっても使われなければ意味がありませんので,テクノロジーを使いこなす人材の育成も必要です。このように,インテルは,創立当時から人材育成には力を注いできました。
 21世紀は,『知識基盤社会(knowledge-based society)』とよばれ,たくさんの知識をもつ人たちのいる国が,経済的にも成功していくといわれています。インターネットやテクノロジーで世界が結ばれている状況では,新しいビジネスチャンスが生まれる一方,競争は激しくなり変化も大きくなっています。そこで,日々刻々と変化する状況に対応できる人材を育てていくことが重要になっています。
 こうした背景もあり,インテルでは,21世紀の知識基盤社会をよりよく生きるための『21世紀型スキル』の育成に焦点を当てて教育支援を行っています。『21世紀型スキル』は,文部科学省の『生きる力』に通じる部分もあるでしょうし,PISA型の探究型学習と共通する部分もります。具体的には,テクノロジーリテラシーとメディアリテラシー,コミュニケーション力,批判的思考力,問題解決力,コラボレーション力等が含まれます。
 ここで,『21世紀型スキル』を育成する手段の一つとして,ICTを教育で活用することがあげられます。これまでの教育では,どちらかというと教師が児童・生徒に知識を伝えるというスタイルでしたが,ICTを活用すると,学習者が自分のペースに合わせて学ぶことができ,インターネット等で様々な情報源にアクセスもでき,教師や仲間と1対1のつながりも構築できる,より学習する側が主体となった教育が提供できると考えています。
 このような考えで社会貢献として教育支援活動をしていますが,使命としては,いまの教育を活性化して革新と継続的な成長を実現させることです。また,目的としては,1)地域の実情に合わせたプログラムを作成し,関係者との協力により世界の教育を改善していくこと,2)次の10億人(next billion)が知識基盤社会に参加できるようにすること,3)政府や教育界のリーダーと連携してICT教育を推進すること,の三つを掲げています。これらをもとに,次のような具体的なプログラムを提供しています。一つめは,Intel(R) Teach プログラムという教員研修を行っています。これは,ICTを活用して『21世紀型スキル』あるいは『生きる力』を積極的に育成していく授業を行うためのプログラムです。二つめは,Intel ISEF(Intel International Science and Engineering Fair)という科学研究のコンテストを開催しています。そして三つめは,大学関係のプログラムです。カリキュラムや研究助成金を提供して,将来に理系の仕事を選択する学生を増やしたいと考えています。
 まず,Intel(R) Teach プログラムについては,999年から実施していて,世界40か国で600万人を超える先生方に受講していただいています。日本では,2001年から実施していて,いままで34,000人の先生方に受講していただいています。例えば,荒木貴之先生のご依頼により,設立する前の立命館小学校さんの先生方に受講していただきました。内容は,大きく五つの視点があります。1)授業を通して何を教えたいのかをよく考えること(授業方略),2)学習したことが社会とつながっていることを理解してもらうこと(プロジェクト方学習),3)深く考えていくために投げかける質問の重要性を把握すること(カリキュラム構成質問),4)初めから評価を意識すること(ルーブリック評価),そして,5)テクノロジーを活用してそれらを統合していくことです。具体的には,各教育委員会へ出向いてプログラムを紹介し,賛同を得た教育委員会に先生方を集めていただき,研修場所をご提供いただき,そこへインテルがトレーナーを派遣する,という仕組みです。のべ36時間で,トレーナーはファシリテーターで,先生方が自分で考え,ディスカッションをしながら研修を進めていきます。そして,最後に一つの授業案が出来上がるので,それを学校へ持ち帰って実施することができるようになっています。受講された先生から,授業を設計することを学ぶことができたという声も寄せられました。
 次に,Intel ISEF は,日本語では『インテル国際学生科学フェア』といいますが,高校生を対象とした,規模としては世界最大の科学コンテストです。歴史は古く,アメリカのSociety for Science & the Public という非営利団体が50年以上前から行っているもので,インテルは10年ほど前からスポンサーとして活動を支えています。現在は,世界約50か国から1,500人以上の高校生が参加して,1週間のうちに審査のほか,様々な地域の高校生同士の交流,ノーベル賞科学者との意見交換,それにグラミー賞のような華やかな開会式や授賞セレモニーなど,多彩な内容で充実した時間を過ごせます。今年,ネバダ州のレノで開催されたIntel ISEF では,参加者1,500人中のトップ3(インテル青年科学賞)はすべてアメリカの高校生でした。残念ながら,新型インフルエンザの影響で今年は日本からの参加はありませんでしたが,日本からは毎年,読売新聞社主催の日本学生科学賞と朝日新聞社主催のJSECの成績優秀者の中から選出されます。17部門に分かれていて,日本から選出された高校生も,それぞれの部門の優秀賞を受賞されています。日本では科学部は地味なイメージですが,Intel ISEF ではヒーローになれますから,ファイナリストになれた高校生は,すごく自信をもって帰ってくるように見えます。また,日本では,Intel ISEF ファイナリストたちの同窓会が『日本サイエンスサービス』というNPOをつくって後進の指導にもあたっています。
 最後に,大学に関する高等教育プログラムですが,テクノロジー・カリキュラムを例にとりますと,例えば,世の中のCPUはマルチコアの時代になっていますが,マルチコアについて大学での授業の普及はまだまだです。そこで,マルチコアのカリキュラムを大学の先生に提供して,いろいろな学生さんに受講していただこうとしています。また,研究助成金を提供したり,テクノロジーを活用して事業を起こす学生さんを支援したりもしています。
 以上が私の担当している教育支援プログラムの概要です。」

── 有り難うございます。『21世紀型スキル』を育てるために必要なこと,つまり,学ぶ側が主体となる教育が,日本ではなかなか実施されていないというご指摘がありました。たしかに,小学校では担任制で一人の教員が理科も国語も社会も教えるケースが多く,専門性をもって理科の面白さを伝える先生は一部に限られますし,中学校や高校では理科専門の教員はいるものの,知識偏重になっている傾向があるようにも感じます。こうした現状について,どうお考えですか。

柳原「とても残念に思います。せっかく小学校で理科が楽しいと思っている子どもが,中学生,高校生になって受験をするようになると,知識詰め込み型の学習にコロッと変わってしまうんですからね。」

―― よくいわれるのは,中学2年の電気回路の学習ですね,オームの法則など,抽象的な概念をもたないと理解しにくい内容なので脱落する生徒が多いと聞きます。また,そのころから高校受験に向けた学習方法に変わっていくということもあるでしょう。


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