■ 日本の教育に求められている変化 ■
── アジアの諸外国と比べて,日本では,政府・自治体と私企業との間にある壁の高さを感じますか。
柳原「変わってきているとは思います。2001年の導入当時は非常に感じましたが,だんだん取り組んでいただけるようになってきていますね。学校や文部科学省だけでなく,一般の人々の考え方も変わってきてはいますが,やはり諸外国に比べると……。」
── まだまだ日本は変わっていかなければならないようですね。いまの日本の教育について,問題をあげるとすれば,どのようなことだとお考えですか。
柳原「そうですね,問題の一つめは,教育が学校,とりわけ学校の先生方だけに任されていて,先生がどんどん忙しくなってきていることです。地域支援事業など,少しずつ変わってきているとは思いますが,世の中すべての人ができる限り参加した教育ができれば,さらに充実していくのではないでしょうか。
また,二つめは,一つめと関連して,文部科学省が『生きる力』という新しい考え方を打ち出していながら,大学受験や高校受験は,いまだに評価の基準が古い学力観に基づいていることです。今後,日本では,新しい学力観への移行が課題になると思いますし,その新しい学力観というのは,『21世紀型スキル』のような,子どもたちが世の中に出たときに役立つ力であることが必要です。
そして,三つめは,教育システムの問題です。日本では,全国いたるところに良い取り組みをされている先生がいらっしゃいます。しかし,それが全国的に広まる仕組みが欠けているような気がします。いろいろな素晴らしい取り組みも,ほかの地域で知ることが難しく,なかなか広まりませんね。」
── 問題の一つめについては,地域の方々がもっと声を上げて教育へ参加する姿勢を見せていくことがボトムアップの解決策になるのかと思います。そうした声を上げるなかで,その地域に住む企業の方々をとおして,学校と企業との連携が図れれば素晴らしいのですが。問題の二つめについては,なかなか難しい問題ですね。新しい学力観への転換は,そう簡単にはいかないような気がします。
柳原「私が懸念するのは,韓国の先生や台湾の先生と話をすると,先生方は,自分の教え子たちは国際社会で活躍していくんだという自覚をしっかりもっているんですね。韓国も台湾も,国が小さいという理由はあるのでしょうが,日本は1億2000万人いるためか,何となく国内だけで生きていけるという気持ちで育てられているように感じます。しかし,身近な例で考えても,都内のコンビニでアルバイトしている方にも外国の方が相当いらっしゃいます。いまの世の中は,日本の国内にいたとしても国際感覚がなければやっていけません。ところが,日本の教育は,国際感覚を身につけ,国際競争力を育てる視点が欠如しているように思えます。
また,これまでの日本の企業は,『21世紀型スキル』をもつ人材を採用するというより,ポテンシャルがあってピュアな人材を採用して自社の中でプロフェッショナルとして育ててきました。しかし,いまの日本の企業は,そうした余裕がなくなってきています。もしこの先,日本の大学を卒業した人材よりも,即戦力がある海外の教育を受けた人材を採用しようという考え方に変わったとき,日本の大学生は,卒業後どこで働けばよいのでしょうか。年功序列と終身雇用のシステムが日本の企業にあったときは,企業に入ってから職業教育を受けることで間に合っていたと思いますが,そのシステムがなくなりつつあるいま,日本人の将来についてすごく心配しています。
このように,初等中等教育から大学まで,これからの人材に関する競争は,国内だけの競争ではなく国際的な競争だという意識をもつことが,教える側にとっても学ぶ側にとっても大切だと思います。」
── 日本は,外国人の受け入れに対する壁が高いですからね。コンビニの例を一つとっても,国際的な感覚は必要だということがわかりますね。そういう時代の変化に,日本の教育が柔軟に対応できるかどうかを考えたとき,インテルをはじめ企業が実施している素晴らしい教育への取り組みを多くの先生方に知ってもらうことがとても重要だと思います。
柳原「理科教育に関していえば,先生方には,ぜひ Intel ISEF に参加してくれる子どもたちを育ててほしいと願っています。Intel ISEF に参加するために3月の研修で3日半過ごした高校生は,見違えるように成長します。さらに,Intel ISEF に1週間参加したあとは,みなさん輝くばかりです。課題研究は,『21世紀型スキル』の重要な要素である,問題を自分で見つけて解決する学習の典型だと思いますので,できるだけ多くの子どもたちに Intel ISEF に関心をもってもらい,参加してもらいたいですね。
一つエピソードをご紹介すると,Intel ISEF に参加されたある工業高校の先生のお話ですが,その高校は英語が選択なので,生徒さんの中にはAからZまで言えない方もいらっしゃるそうです。ところが,アメリカで自分の研究を発表するとなった途端に,ものすごく勉強・練習をして,プレゼンテーションができるようになったというんです。このように,何か一つ得意なものがあれば,それに必要な学力はつきます。理科に限らず,チャレンジングな目標を子どもたちにあたえることができれば,その子どもたちをより伸ばすことができると思います。ぜひ,そうした目的に Intel ISEF を活用していただきたいと強く願っています。」
── 日本から Intel ISEF に参加しようと考えたとき,どのようなことに気をつければよいですか。
柳原「日本からの Intel ISEF 参加者は,読売新聞社主催の日本学生科学賞と朝日新聞社主催のJSECの成績優秀者の中から選出されることは前に述べましたが,日本のコンテストでは高校生らしさが求められる場合もありますが,Intel ISEF ではどのくらいプロフェッショナルな研究者としてプロジェクトを仕上げているかが問われます。ですから,日本のコンテストとは少し考え方を変えて取り組む必要があるかもしれません。例えば,スポーツや芸術の世界では,早期から教育し,若くしてスーパーヒーローが誕生しますね。理科などの教科で,そうした教育が行われ,若手のスーパーヒーローが現れてもよいのではないでしょうか。」
── 日本から Intel ISEF に参加できる子どもたちを先生方に多く育てていただくこと,それが今後の社会に求められる『21世紀型スキル』を身につけるための一つの具体策といえますね。本日は,いろいろと貴重なお話を有り難うございました。■
もどる← 1 2 3 →つぎへ

Copyright(C)2009
KYOIKU SHUPPAN CO.,LTD. All Rights Reserved.
|