2010 spring

コスモ石油株式会社
インタビュー(1)

コーポレートコミュニケーション部
環境室 大谷恵美子さん

 コスモ石油グループは,原油開発から石油製品・石油化学製品の販売までを一貫して行い,石油エネルギーを安定的に供給しているグループです。今回は,そのグループの中核的存在であるコスモ石油を訪ね,持続可能な社会づくりのために取り組んでいる地球環境問題への対応や社会貢献活動などについてお話しを伺いました。(聞き手:岡本)

 

■「コスモ石油エコカード基金」設立と国外での活動状況 ■

── きょうは,よろしくお願いいたします。コスモ石油では,「コスモ石油エコカード基金」を設立されて活動されているそうですが,まずは,基金設立の経緯と現在の状況についてお聞かせください。

大谷恵美子さん(以下,大谷)「よろしくお願いいたします。コスモ石油エコカード基金は,“地球のために何かをしたい”というお客様の気持ちと当社の思いが1つになって生まれたものです。従来あったコスモ・ザ・カードにご希望のお客様から年間500円をお預かりし,そこにコスモ石油グループからの寄付金を加える『エコカード』を発行し、その寄付金を資金として地球環境保全などの活動を行っています。お客様にとっては,個人ではなかなか取り組みにくい地球環境問題について,当基金が行っている活動へ資金援助というかたちで参加できるのが特長になっています。2002年の4月に設立しましたので,現在,8年目になります。」

── 2002年から始められているということですが,規模は拡大している方向にあるのですか。

大谷「そうですね。2002年度の時点でコスモ・ザ・カードのエコ会員様は約5万2100人だったのですが,2005年度に8万人を超え,現在は約8万6000人の会員様がいらっしゃいます。」

── 着々と増えていますね。最近は,環境保全の取り組みが日本各地で行われるようになってきたので,そうした一般 市民の意識の高まりも関係しているのでしょうね。

大谷「そう思います。また,コスモ石油グループとしても,化石燃料という地球環境に負荷を与える製品を取り扱っているものですから,なんらかのかたちで環境保全に貢献していきたいという思いがあります。」

── わたしたち一般市民も化石燃料を消費して車などを走らせて生活しているのですから,地球温暖化などのテーマは,企業側も利用者側も意識しなければならない問題だと思います。

大谷「そうですね。そういった意味で,当基金の設立は,お客様の気持ちとコスモ石油グループの思いの双方を実現することにあったといえますね。」

── それでは,実際にはどのようなことに取り組まれているのでしょうか。

大谷「当基金では,地球環境貢献活動を『ずっと地球で暮らそう。』という合言葉のもと,気候変動にともなう地球温暖化の防止をメインテーマにして取り組んでいます。このメインテーマを大きく“持続可能な社会の実現”と“次世代の育成(環境教育支援)”に分け,そのうちの“持続可能な社会の実現”では森林支援や地域住民の自立支援を行っています。国内外合わせまして,2002年に7か所7プロジェクトから取り組みを始め,現在は14か所12プロジェクトに広がっています。」

── 2002年度から行っている7プロジェクトとは,どのような取り組みですか。

大谷「2002年度から行っているのは,国外では,中国のシルクロード緑化プロジェクトと,パプアニューギニア・ソロモン諸島での熱帯雨林保全活動,キリバス共和国での南太平洋諸国支援プロジェクト,そして,フィリピンでの循環型農業支援になります。また,国内では,野口健環境学校と,さとやま学校が当基金の設立時から続けられています。
 その後,2003年度から国内で学校の環境教育支援を始め,2004年度から南太平洋諸国支援にツバルを加え,2005年度から中国の秦嶺山脈で森林・生態系回復に取り組み,2006年度から国内で種まき塾を,2008年度には内モンゴルで緑化活動とタイ北部山岳地帯で共有林地図作成とエコキャビンスクールを始めました。」

── 基金の設立当初から,国内外で幅広く取り組みを始め,その後も,国内でも国外でも充実を図っていらっしゃる経緯がよくわかりました。まずは,国外のことを中心に伺いますが,“持続可能社会の実現”に向けた植林支援は,地球温暖化対策として,二酸化炭素を吸収する植物を植える取り組みが中心になりますか。シルクロードなど,砂漠のイメージですが。

大谷「中国でのシルクロード緑化のプロジェクトは,砂漠化が進んでいるところに植林をしています。」

── 砂漠化を防ぐという取り組みですね。

大谷「そうですね。砂漠化が進んで農耕地としては使えませんので,乾燥や寒暖差に強いサジーというグミ科の植物を植えています。サジーは3年経つと実が採れるようになり,この実は,漢方薬やジュースとして用いることができます。植林によって,砂漠化を防ぐだけではなく,地元の人たちの生活を安定させる自立支援にもなっています。
 2008年度からは,同じ中国で砂漠化が進む内モンゴルでも,サジーを植えて,砂漠化防止と地元の人たちの生活安定,そして新たに子どもたちへの教育という視点を加えて取り組みを始めました。」

── シルクロード緑化や内モンゴル緑化は,農業や次世代教育の視点も含まれているんですね。同じ中国でも,秦嶺山脈の森林・生態系回復プロジェクトは,どういう取り組みでしょうか。

大谷「このプロジェクトは,西北大学生命科学学院の李先生がされている活動の支援になります。秦嶺山脈では,以前,商業伐採用に道路が作られましたが,現在は使われなくなり放置されています。この廃棄道路によって,キンシコウやジャイアントパンダの生息域が荒らされているために,この道路を植林することによって、きちんとした生態系に戻していく取り組みをしています。」

── 熱帯雨林保全活動は,どのような取り組みですか。

大谷「パプアニューギニアやソロモン諸島では,焼畑農業を行ってきたんですが,最近の人口増加によって森林の回復能力を超えて焼畑が行われる状態になっています。そこで,日本のような定置型の有機農業を広めるために,技術指導を行っています。  パプアニューギニアもソロモン諸島も主食はイモやトウモロコシで,地元の人たちはお米を食べたことがなかったようなんですが,現在、パプアニューギニアでは,水耕栽培を技術指導したことで,お米作りが行われています。」

── そうなんですか。将来,日本でパプアニューギニア産のお米を食べるかもしれないですね。(笑)そこまではいきませんか。

大谷「なかなかそこまでは。(笑)奥地では,飢餓ではないのですが,自然のフルーツなどを食べることが多く,自分で食物を耕作することがあまりないため,食べ物の種類が少ないんです。地元の人にお聞きすると,野菜も食べたことがないんですね。もともと偏った食事に,たまに自然界で獲れた動物を食べる程度ですので,かなり栄養バランスは悪かったようです。そこで,野菜作りも一緒に指導しています。」

── 南太平洋諸国の支援活動は,どのような取り組みですか。

大谷「フィリピンのプロジェクトは,開発の遅れている南西部のパラワン島で,キャッサバの栽培とエリ蚕という蚕の飼育を指導するというものです。養蚕については,主に地域の女性たちが蚕を育て,繭から絹の糸を引き出して,日本から贈られた機織で簡単な編み物を作っています。この取り組みは8年目に入りまして,織物作りも定着してきました。今後の課題は,安定した絹の生産と,製品開発ですね。現地トレーナーの方も育ってきていて,地元の方が地元の方を教えるかたちになり,自立へ進んでいるという報告を受けています。
 タイのプロジェクトは,いままで国民が住んで生活をしていた森林を,タイ政府で国有林にしたために地域の住民が森林へ入れなくなり,生活の基盤を失ってしまったという問題に対する支援です。この地域は,山の奥地で地図も何もないそうです。そこで,GPSを利用して地図を作り,地域の住民の方たちが森林を保全しながら利用していたという申請を政府に行うことで,共有林を取り戻せるように,支援を始めました。現在,政府に申請を出している段階ですが,まだ許可は得られていないということです。」

── フィリピンとタイのプロジェクトについても,簡単にご説明ください。

大谷「そうですね。2002年度の時点でコスモ・ザ・カードのエコ会員様は約5万2100人だったのですが,2005年度に8万人を超え,現在は約8万6000人の会員様がいらっしゃいます。」

―― ここまで,海外の事例を中心にお話を伺いましたが,森を育てるという直接的な取り組みばかりではなく,地域の方たちの生活を支援することで自然破壊を食いとめるという間接的な森林保護の取り組みもされているんですね。


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