2010 spring
コスモ石油株式会社
インタビュー(2)

コーポレートコミュニケーション部
環境室 大谷恵美子さん

 コスモ石油グループは,原油開発から石油製品・石油化学製品の販売までを一貫して行い,石油エネルギーを安定的に供給しているグループです。今回は,そのグループの中核的存在であるコスモ石油を訪ね,持続可能な社会づくりのために取り組んでいる地球環境問題への対応や社会貢献活動などについてお話しを伺いました。(聞き手:岡本)
 

■国内での活動状況(1)−種まき塾,野口健環境学校 ■

── 国内での取り組みに関しては,“次世代の育成(環境教育支援)”に重点を置かれているように見受けましたが,そのような認識でよろしいでしょうか。

大谷恵美子さん(以下,大谷)「そうですね。次世代を担う子どもたちに環境問題について真剣に考えてもらうことや,教育現場の先生方にいろいろなノウハウをご提供させていただくことを中心にプロジェクトを進めています。」

── 先ほどのお話では,エコカードの会員向けにも,種まき塾を開催されているということですね。

大谷「はい。種まき塾は,富良野のゴルフ場が閉鎖されたことがきっかけになっています。ゴルフ場は,人工的に土地を平坦にして粘土を盛ってつくっていますから,そのまま放置しておいても植物がなかなか育ちません。そこで,閉鎖されたゴルフ場を元の森に戻す取り組みを始めることにしました。しかし,かなり広い土地なので,回復させるのに何十年かかるかわかりません。」

―― 粘土を掘り起すところから始めるのですか。

大谷「そうです。種まき塾では,北海道に固有のトドマツやエゾマツなど,なるべく富良野の大地に合ったものを植林しています。芽が出たての小さい赤ちゃんのような実生で苗床を作り,苗木を育てるところから始め,ここ3年で苗木を安定供給できるようになってきましたので,ゴルフ場に植林するようになりました。粘土を掘り起こし,カミネッコンという段ボールの鉢に苗木と肥料の入った土を入れて,まわりにもある程度の土を盛って,苗木が元気に生育できるように植えています。
 苗木を植えて3年から5年ほど経つと自然に還るらしいんですよ。段ボールの鉢が自然に還るときには根が張るようになり,木が育っていくということですので,あとは葉が落ちて腐葉土ができれば,土壌もだんだんよくなっていくと思います。」

── 初めは人が手を入れて,植樹を重ねていき,あとは植物の力で土地を改善するという取り組みですね。

大谷「そうですね。人間が手を加えて破壊してしまった自然は,ある程度は人間が手を加えてあげなければ元に戻るのは難しいと,実際に体験して思いました。」

── 野口健さんの環境学校については,長い間,取り組まれていますが,どのような内容になりますか。

大谷「野口健さんは,アルピニストであり,自然環境保護にご関心があると伺っていました。野口健さんは,子どもたちが環境問題に対して自発的に発言し,学校や家庭で環境問題について積極的に取り組んでもらいたいという気持ちを,『環境メッセンジャーを作りたい』という言葉に込めて,当基金で年に何回かご指導いただいています。
 野口健さんは大変お忙しい方ですが,2009年度は,白神山地で高校生と大学生を対象に,富士山で小学校4年生以上と中学生を対象に,2回に分けて環境学校を実施しました。環境に対する考え方ですとか,自然がどうなっているかなど,野口健さんからテーマをいただき,子どもたちは,自然体験を通 して,毎日の授業の中で自然環境保護の大切さを実感していました。
 私は,昨年8月の終わりに富士山で行われた2泊3日の環境学校に参加しました。ご参加いただいたお子さんたちは,普段,電気も使えるし,蛇口をひねれば水も使えるし,楽になんでも使えます。ですから,富士山という自然の中では,都会の子どもたちにとっては過酷な面 もありましたね。(笑)」

── 2泊3日ですからね。丸一日,自然の中で生活しなければならない日もありますね。

大谷「そうですね。1日目の食事では,いかにしてエコに食事を作るかというテーマで,買い物をするところから自然環境保護の学習が始まりました。」

── 買い物からエコなのですか。

大谷「そうなんです,買い物のときからです。例えば,レジ袋はいりません,というのもエコですね。ある子どもは,ジャガイモを買うのにも,ばら売りのジャガイモを買うと袋がいらないから,それもエコだよね,お母さんはいつも袋入りのジャガイモを買うけれど,僕はそうじゃありません,なんて言っていました。そういうことは,教え事ではなくて,自分で実際に体験してみないとわからないことですね。  食事を作るときは,小学生の男子組と女子組,中学生の男子組と女子組の4チームに分け,生ごみを出すのがいちばん少ないチームはどこかなど,ゲーム的要素を取り入れて学習を進めました。」

── どのチームがいちばん生ごみが少なかったのですか。

大谷「いちばん少なかったのは,中学生の女の子たちです。男の子たちは,ジャガイモの皮をむいても,その皮を捨てちゃうんですね。中学生の女の子たちは,皮を真剣に洗っていて,その皮を全部集めて何をしたかというと,小さく切ってスープを作っていました。」

── 皮も料理したんですね。

大谷「普段ご家庭ではそんなことはしないようですが。(笑)聞いてみると,お母さんは普段は捨てているけれど,作ってみたら食べられた。いままですごい無駄 をしていたのかもしれない。という意見を言う女の子もいました。ほかの子どもたちもごみを出さないように工夫していましたね。中学生の女の子たちは,水もあまり使わないようにしていました。初めは泥を取り除く水,次はある程度洗う水,というように洗う場所を決めて。」

── ごみを出さないようにしようというテーマは,野口健さんが出されたんですか。

大谷「初めに,野口健さんの事務所のスタッフの方たちが一人ずつ付いて,エコって何だろうね,という話し合いをしました。スタッフの方たちがヒントは与えていましたが,実際に考えるのは子どもたちですね。その話し合いの中から,料理を作るときは,できるだけごみを出さないようにするというテーマも生まれてきました。
 こうした話し合いから始まって,小学4年生から中学3年生までの子どもたちが一緒にテント生活をしました。1日目は,エコな食事を作るというテーマで,どうやったら使う水を少なくして洗えるかとか,もちろん食事の味とか,ごみを出さない工夫とか,そうしたことを採点の基準にして,最終的に野口健さんが順位 をつけます。子どもたちも,すごい真剣になっていました。
 子どもたちは,この体験を通して,だんだん自立していくというか,年下の子どもは,年上の子どもを見て仕事を覚えたりしていました。逆に,年上の子どもが年下の子どもに包丁の使い方を教えたり,危ないことがあれば飛んで行ったり,年齢差に関係のない昔のような集まりができていましたね。まわりのスタッフの方たちも見ていて,怪我をしそうになれば注意しますが,それまでは見守っているんです。火の扱い方でも,ぎりぎりまでは見守っていて,やけどをしたり怪我をしたりする直前に注意するんです。ちょっと熱い思いをして覚えるとか,子どもたちは,なかなか学校では教えてもらえないお勉強ができたのかもしれませんね。」

── そういう体験は重要ですね。

大谷「実践的な体験というのは,子どもの中で何かが芽生えるのかなと感じました。野口健さんは,富士山の登山にしても,ただ登るだけではなくて,一緒に清掃をしながら,ごみを見てどう思うかな,と質問したり,森林限界で景色が変わったところでは,ここでは何で木が生えていないのだろう,と疑問を投げかけたりするんですね。
 富士山にはごみが結構あるんですが,そのごみは,人間が散らかしたものです。野口健さんご自身がごみを拾いながら,ヒマラヤでたくさんのごみが捨てられて問題になっていることや,高山でごみを捨てると分解されずに残ってしまうことを,切々と優しく子どもたちに語りかけていました。子どもたちは,野口健さんの後ろ姿を見て,感銘するところがあったのでしょう。眼が輝いていて全然違うんですね。あらためて子どもの感受性ってすごいなと感じました。野口健さんの願いが子どもたちの心に残って,“環境メッセンジャー”になってくれたらいいと思います。エコカード基金の支援で,このようなこともできるのかと,すごい勉強になりました。」


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