2004 spring

滋賀県立琵琶湖博物館
事業部長 中島 経夫 先生
インタビュー(4)

 日本最大の湖のほとりに建つ滋賀県立琵琶湖博物館は,「湖と人間」をテーマに,1996年にオープンしました。
 今回は,博物館の特色や研究内容などについて,開設準備室の頃から勤務され,現在は総括学芸員の中島経夫先生にお話を伺いました。

(聞き手:編集部 岡本)

 

■大人気の秘密■

─― 聞くところによると,国立科学博物館は別として,それを除くと琵琶湖博物館は一番,年間の来館者数は多いと伺ったのですが,日本ナンバーワンの来館者数の要因は何だとお考えですか?

中島経夫先生 (以下,中島)「いろいろな要素があると思います。まず1つめは,滋賀県にこういう施設がなかったということですよね。ここの来館者は,滋賀県だけではありません。滋賀県の人口は約130万人ですが,開館初年に入った人数は100万人ですから。また,リピーターが5割を超えましたので,リピーターの割合も多いですね。
 そして,場所の問題もあります。例えば,大阪からバス旅行で北陸の温泉に行こうなんていうツアーで,休憩所としてもよく使われています。琵琶湖博物館と何とか温泉に行くというツアーを旅行会社が企画することもあるようです。それから,水族館だと思って来る人がいるのです。
 水族展示は通路の最後なのです。水族展示で魚を見ようとしても,博物館を見ることになります。すると,意外と博物館が面 白そうだと感じてくれる。そのために,リピーターが多いのです。
 博物館では,どういう人がどういう方法で博物館を知って来ましたかというアンケートを時々とっています。その結果 ,一番多いのは友人や家族なのです。メディアとか広報とか広告とかは,意外と少ない。行って面 白かったからという,くちコミなのです。500円で1日楽しめる施設としては格安というイメージがありますその日は入ったら出入り自由ですから,1日券を買って外へ出たら,もう入っちゃいけないなんていうことはしませんので。 」

── 1日券になっているのですか?

中島「はい,1日券になっています。そして,ここの展示が意外と面 白く,1日いても楽しめるのは,展示にオリジナリティーがあるからだと思っています。県立博物館の多くは,テーマがはっきりしていません。県レベルになると,山もあり海もあり,何を展示していいのかわからなくなりがちです。ところが滋賀県の場合は,琵琶湖というテーマがはっきりしています。
 それから,博物館では,設計図ができてから,あるいは展示ができちゃってから学芸員が採用されるケースもありますが,うちはそうではなく,最初に学芸員を採用して,展示をどうするのか,建物をどうするのか,運営をどうするのか,ということを考えながら作った博物館で,ある意味では学芸員が楽しみながら作ってきました。学芸員が楽しく作った展示なのだから,見る人にとっても楽しいのだと思います。やる方が楽しくなかったら,見る方は絶対に面 白くないというのが何でも原則ですから。一見,ここの展示を見ると,文化祭と変わらないです。(笑)ごちゃごちゃっとしている。でも,それはなぜそうなったかというと,学芸員それぞれが展示のコンセプトを考えて,自分がこのコーナーを受け持っているという意識で作ったからです。だから,ここは誰々が作った展示なのかがわかるように名前を入れようという話にもなったのです。まだしていないのですが,次に展示替えをするときは,おそらく名前の入った展示になると思います。
 普通の博物館では,地球の誕生から始まり,生命の進化があって,最後に郷土の自然とか,その県の歴史上の人物とか,そういう展示がされるのだけれども,うちはあくまでも琵琶湖を中心にしていますから,琵琶湖の生い立ちであり,琵琶湖に暮らす人々の歴史です。そういうことに絞って展示していますから,自然史の展示室から歴史の展示室に入ったときの違和感がないのでしょう。」

── 滋賀県にとって,琵琶湖は意識しないといけない大きな存在ですものね。

中島「そういう意味では,もうテーマは琵琶湖だと言い切っちゃっえますよ。」

── あと,館内施設については,いろいろ話を伺えましたが,琵琶湖に面 しているという立地条件から,館外施設も特長があるのですか?

中島「館外の施設は,屋外展示で縄文時代やゾウがいた頃の様子を再現していますが,面 積は小さいですね。この博物館では,滋賀県じゅうが博物館ですという考え方ですから。」

■琵琶湖博物館の目指す方向■

─― 最後に,今後の琵琶湖博物館への進む道といいますか,どういった方向を目指しているのかという点について,お考えをお願いします。

中島「博物館を開館してからもう7年か8年ぐらいたっているわけですが,だんだん事業が多くなっています。事業が多くなれば,その分,研究に費やす時間が減っていきます。そういう意味で,事業を整理しないといけないというのが1つあります。それと同時に,この博物館を作るのに10年かかっているので,そろそろ展示を替えることを考えて準備しなければなりません。そこで,2006年を目指して,展示替えをし,博物館の運営とかを見直そうということで,中長期計画を作っています。館内では行事を作ったり,そういうのを専門に考える人の部署を置いたりしながら,どういう博物館を作るか,展示をどう替えるかという基本的な設計を作っています。今は,基本計画を作る年度だといえます。
 その中長期計画の中で言っているのは,やっぱり基本理念の部分は間違っていないのだろうということです。どこでもだれでも博物館を目指そうというキャッチフレーズ,要するに,博物館の中だけにとらわれず,もう少し博物館を外へ広げていこうという基本方針です。では,それを具体的にどう実行するのかというのが,今,検討されています。例えば,はしかけ制度を活用して,その人たちと一緒にフィールドワークを盛んにしていく。あるいは,博物館の中でばかり講演や講座をするのではなくて,博物館にあまり来る機会のない県北で琵琶湖博物館の講座をやる。そういうことも必要なのかなと思っています。
 フィールドへ出て行きながら,博物館をまだ利用していない人たちも,もっと利用していただける形にしたい。そうすると,事業はますます増えます。だから,どこの博物館でもやっているような,例えば,夏休み相談コーナーなどはやめてしまおうかとか,通 常の観察会はもうなしにしようとか。そうでもしないと,限られた人数の中ではできません。事業を制御しながら,目立つような博物館を作っていきたいと考えています。」

── きょうは,琵琶湖博物館の非常にユニークなところがいくつも聞けたかと思います。貴重なお時間,ありがとうございました。


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