■さまざまな企業との連携■
── NPO法人化されたのが2003年ですから,そのあと5年ほどの歳月が経っていますが,その間にニーズの変化などはありましたか。
藤川大祐先生 (以下,藤川)「2003年の4月から2年間,文部科学省の『NPOと学校教育との連携のあり方についての実践研究事業』の指定を受けまして,千葉県の旭市で学校とNPOとの連携による授業を行いました。旭市の二つの小学校から各教科等で外部の協力を得てやりたいことをたくさん出してもらい,2年間で50授業ぐらいやりました。ただし,その中には,全然企業とは関係のないもの,例えば,海外と交流したいから留学生を連れてきてほしいというものもありました。できるだけ学校のご要望にはお応えして,各教科で,外部と連携した授業づくりをNPOがコーディネートして行いました。そのプロセスを公けにしたんですね。『企業とつくる授業』という本も出しましたし,いろいろなシンポジウムなどでも発表しましたし,雑誌にも書きました。そうするうちに,授業自体が面
白いということもあったと思いますが,かなり取り組みが知られるようになりました。
ほかにも,2003年から2006年度まで,CEC(財団法人 コンピュータ教育開発センター)の『産業協力授業プロジェクト』に参加し,NECさんにお願いをして福祉に関する授業を行いました。どのようにすれば障害のある人が使いやすいコンピュータをつくることができるのかということを,NECさんに働いている方のご協力を得て,映像教材なども作って,2003年度に実施しました。
また,2005年度からの3年間,経済産業省の『地域自律・民間活用型キャリア教育プロジェクト』にも参加しています。これは,各地域で地域独自の取り組みとしてキャリア教育のプロジェクトを進め,産業界も協力するという指針にもとづき,千葉県内で企業と連携してキャリア教育の授業づくりを進めています。毎年,小学校4校,中学校4校,高校2校を千葉県に指定してもらい,地域の課題に合ったキャリア教育プログラムを企業の協力を得て実施し,3年間のプロジェクト期間が終わってからも千葉県として自律的に授業ができるような体制をつくっていく,という課題を経済産業省からいただいています。
こうしたことで,各企業の社会貢献担当者や,とくに千葉県内の学校や教育委員会に知られるようになり,企業からはいくつかオファーもいただくようになりました。例えば,読売新聞社さんからは,教育支援部という部署をつくったのでアドバイスがほしいというご相談をいただき,インタビューするとか,記事を書くとか,見出しをつけるとか,言葉の技術をきちんと教えるプログラムをつくってはどうかと提案しました。新聞社として中核になる言葉に関する技術を伝えていくことは,人の話を聞く,実用的な文章を書く,端的に一言で表現する,といった子どもたちの活動の基礎をつくるのに役立ちます。このプログラムは2004年度から始め,現在も定期的に参加校を募集しています。今年度は35校の参加がありました。
また,マクドナルドさんからは,NHKエデュケーショナルさんを窓口にして,食育のプロジェクトをやりたいという話がありました。しっかりした食育の教材をつくり,その教材を使った授業を展開しています。このケースでは,私どもは,教材の監修と授業の実施,事務局を担っています。資料がほしいとか,教材を借りたいとか,学校からのお問い合わせが多いんです。例えば,子ども一人一人の基礎代謝を測り,自分たちが食べている物のカロリーを考えたり,運動量
を考えたりして,適切に運動して食事をとっているのかをチェックする『エネルギーの消費と摂取』というプログラムを入れているので,基礎代謝がわかる体組成計がないと授業ができないんです。そこで,その体組成計の貸し出しをしています。
ほかにも,多くの会社からオファーをいただいていますが,研究をしたいという側面
もあるので,こちらの問題意識で新しいものを提案して企業さんにご協力いただくことも並行して進め,これまで大小あわせて100プログラムぐらいは実施してきました。」
── いろいろお話を伺いますと,2003年の文科省指定の研究や,CECのプロジェクトに参加したころが,企業とのかかわりに関しては大きなターニング・ポイントだったといえるでしょうか。
藤川「そうですね。CECについては,先ほど初年度の件だけお話しましたが,2年目は,JAXA(宇宙航空研究開発機構)と一緒にGPSを学ぶ情報の授業を行いました。ほかに,ソニーさんにお願いして『フェリカ』という非接触ICカード技術について授業をしたり,ウェザーニュースさんと気象情報の授業をしたりしました。」
── 2年目からは高校の授業なんですね。
藤川「初年度は何でもよかったんですが,2年目からは『産業協力情報授業プロジェクト』となり,情報の授業を求められましたので,そのようになりました。」
── かなり多く手がけられていますね。スタッフはどのような方がやられているんですか。
藤川「いまお話したのはほんの一例で,スタッフは大学院生が5〜6名ですが,夜間なので現職教員でない者は昼間が空いているんですね。そこで,その大学院生に昼間アルバイトしないでNPOで働いてほしいと言っています。慢性的な人手不足で,かなり無理をしてやってもらっていますね。」
もどる← 1 2 3 4 →つぎへ

Copyright(C)2008
KYOIKU SHUPPAN CO.,LTD. All Rights Reserved.
|