2008 spring

企業教育研究会
理事長 藤川 大祐 先生
 インタビュー(3)

 企業教育研究会は,2003年3月に千葉県でNPO認証を受けた,学校と企業とを結んで新しい授業を開発している特定非営利活動法人です。日本マクドナルド,ソニー・コンピュータエンタテインメント,読売新聞社など,さまざまな企業と連携して新時代にふさわしい授業づくりを進めています。
 今回は,NPO法人をつくるまでの経緯や,学校と企業の連携,今後の教育のあり方などについて,NPO法人理事長で千葉大学教育学部准教授の藤川大祐先生にお話を伺いました。

(聞き手:編集部 岡本)

 

■子どもの学習意欲と理数離れ■

── 研究的な立場から,「企業教育研究会」のほうから声をかけた例をいくつか紹介していただけますか。

藤川大祐先生 (以下,藤川)「千葉ロッテマリーンズさんの事例がわかりやすいでしょう。マリーンズは,地元にいると,非常にファンサービスに熱心だという印象がありました。一方,キャリア教育をしていると,子どもたちは小さいころ憧れていた職業に必ずしも就かない。まあ就かないことはいいんですが,あたかも夢がなかったかのように,大人になってどんな仕事をしたいのかわからない人も多い。このことから,小さいころに好きだったことを大切にしたキャリア教育をする必要があると考えました。野球選手に憧れる子どもは多いけど野球選手になる人は少ないですね。しかし,野球選手以外でも野球にかかわれる仕事はあるわけです。そこで,球団職員の方にご協力いただき,ファンサービスの領域でどんな仕事をしているのかをお話してもらう授業をつくりました。例えば,挑発ポスターが3年前に話題になりましたが,ちょうど楽天ができたとき,『東北に春が来るのは,おそい』といった内容のポスターを,もちろん楽天さんの協力のもとで作成し,幕張地区に大々的に貼っていたんですね。あるいは,休みの日などに,デイゲームが終わってから,子どもたちにグラウンドを走ってもらう『キッズ・ベース・ランニング』という企画も実施しています。こうしたさまざまなファンサービスでお客様を引きつけてファンを増やそうということを非常に熱心にやっているわけです。ちょうどマリーンズが日本一になった年ですが,日本一になる前の段階でお話をしたところご協力いただけることになり,継続的にかかわりをもたせてもらい,小・中・高で授業を実施しました。NPOとして幕張近辺の学校にお誘いをかけ,同意が得られた学校で実験的に行いました。」

── お話を伺っていると,テーマには事欠かないんですね。

藤川「学校で教えたいことってすごく多いんですよ。」

── NPO法人「企業教育研究会」は,学生のニーズをもとにつくられたということですが,すぐに文科省の指定を受けたり経産省のプロジェクトに参加したり,国がNPOと学校との連携に力を入れるようになった時期とも重なり,時流に合っていたんですね。

藤川「いろいろなことが重なっていますね。外部と連携した開かれた学校づくりが求められていますし,キャリア教育の充実も求められています。さらに,学力問題でもとくに理数離れについては,何のために理科とか算数・数学を勉強するのかわからないという問題があるので,理科とか算数・数学を学んで使っている人たちの姿を見せる必要性も生じます。」

── 理数離れというお話がありましたが,理科や算数・数学に関する実践例をいくつかご紹介ください。

藤川「理科も算数・数学も,何のために勉強しているのかわからない部分があると思うんです。抽象的な事柄や科学的な事柄にあまり興味をもたない子どもはけっこういます。例えば,数学の関数などは難しいだけじゃないか,という疑問を多くの人がもっています。子どもだけでなく,親も同様で,数学なんて役に立たないという親もいます。しかし,一方で,数学や科学の知識を活用して働いている人はたくさんいて,日本の産業の根幹にも深くかかわってきます。例えば,ものづくりをしている人とか,プログラミングをしている人とか,そういう人たちを視野に入れて授業づくりをすれば,理科や算数・数学の授業が生き生きしたものになるだろうと基本的に考えて進めています。
 理科では,例えば,マブチモーターさんにこちらからお願いして,小学校6年の電磁石の授業を行いました。身の回りのどのようなところにモーターがあるのかという話から始め,携帯電話にもバイブレーション機能でモーターが入っていることを知らせたり,電動歯ブラシのモーターを分解したり,身近なモーターを学びます。また,最後には,たくさんクリップをつける電磁石を作ろうという活動を設定し,子どもたちが一定の長さの導線で電磁石を作り,モーター製作に携わっている方にも同じ材料で作ってもらい,子どもたちが作った電磁石よりもずっと多くのクリップがつくことを見せ,大人のすごさを感じてもらいます。そうすれば,電磁石を何のために勉強するのかという疑問はわきませんね。
 算数・数学もいろいろやっていますが,例えば,ソニー・コンピュータエンタテインメントさんと一緒に授業を行いました。ソニーさんとの話し合いの中から,ゲームを使って教えようという話になり,試みに関数の授業を開発して実施しています。具体的には,ゲームのプログラミングにおいて,キャラクターを動かすときに関数を入力するので,それをごく単純化し,『サルゲッチュ』というゲームのサルを動かすことにしました。一次関数を入れればサルが直線的に動く,二次関数を入れればサルが放物線を描いて動く,式を入れると,その式のとおりにサルが動く簡単なプログラムを作り,すべてその文脈でいろいろな問題を出すんです。例えば,座標平面 上にバナナをいくつか置いて,岩もいくつか置いて,サルが岩に当たらずにバナナをたくさん取ることのできる式を作りなさい,という問題です。数学的な構造は教科書と同じでも,文脈がちがうので,子どもたちはよろこんでやるんですね。キャラクターを動かすときには関数の式を入れて,式のとおりに動かしていること,つまり,実際のゲームはもっと複雑だけど,原理としては同じことをしていることを体験し,小さいころから楽しんできたゲームの中にも関数が使われていることを実感してもらいます。そうすると,関数は何のために勉強するんだという疑問はもう消えてなくなります。」

── これらの事例は,理科や数学の教科の授業の中で行われているんですか。

藤川「教科の授業としてやっています。私どもは,あまり『総合』ばかりではやらないようにしていて,基本的には各教科でやりたいと思っています。例えば,読売新聞社さんの事例は国語の授業として行っています。つまり,各教科の内容を豊かにするような取り組みで,所定の時間数の中に1時間や2時間ちがう要素を入れていただき,単元を再構成していただくと,子どもたちが興味をもち,必然性を理解して学べますという提案をしているので,基本的に教科の中でしっかりやろうということです。」


もどる←   1 2 3 4   →つぎへ


「Go!Go!インタビュー」一覧へ

Copyright(C)2008 KYOIKU SHUPPAN CO.,LTD. All Rights Reserved.