■茨城県自然博物館のコンセプト■
── この博物館のコンセプトは何ですか?
中川志郎先生 (以下,中川)「いまでこそ,どこでも“人に親しまれる博物館”を標榜していますが,もともと博物館は,博物館を必要としている人だけが来てくれればいいという施設でずっときたんですね。
ただ,やっぱり考えてみると,博物館に所蔵している文物とか自然収蔵品は,県のものでも博物館のものでもなくて,人類共通の遺産である。それを利用したい,見たいという人には当然見せなくちゃいけないし,そういう存在すら気がつかない人には,気づかせる必要がある。だとすると,やっぱり人に来てもらわなければいけない。博物館は楽しいものだと実感すればひとりでに来るわけですよ。それで,ない知恵を絞ったのが,ネーミングなんですよ。
ミュージアムパークとなっていますね,パークとつけたのは,隣の公園に気楽に休憩に行くような軽い気持ちで博物館に来てもらいたいという考えからです。それから,普通,こういう博物館は“自然史博物館”というんです,Natural
History Museum なんですね。ここは,Nature Museum なんですよ。“史”をとっちゃった。うちの博物館は,“過去を学び,現在を知り,未来を計る”というのがコンセプトです。“史”とつけると過去に重点が置かれちゃうんです。けれど,ぼくたちが対象にしているのはいまの子どもたち,子どもたちにとっては未来のほうが大切ですからね。最初は,何で“史”がないんだろう,間違いじゃないかと言われました。それに対して一生懸命答えていたんですけれども,そのうちにだんだん外国でもそうする動きがでてきました。アメリカにも
Nature Museum というのができてきたし,カナダは全部 Nature Museum に変わった。」
── 外国の動きよりも先に,ここは Nature Museum なんですか,時代の先見性があって素晴らしいですね。
中川「一般の人になじみやすくしたいと考えただけなんです。ミュージアムパークとつけることによって一般に開示されている魅力を感じるだろう,自然博物館とすることによって自然体験教室を想起するだろう,“自然”と“自然史”は1字の違いだけど,大きな開きがあるんですよ。
それともう一つは,“過去に学び,現在を知り,未来を計る”というコンセプトを具体的に表すシンボルマークをつくったんです。それまでは県立博物館でシンボルマークをもっているところはなかったんです。しかし,予算はなかったんですね,シンボルマークなんて必要と考えられていなかったから。とにかくつくらせて欲しいと言ったら,総予算の中でならいいということになったので,デザイナーの方にも非常に勉強してもらってつくったのが,そこにあるマークです。マンモスは過去なんですよ,それから半月形なのが猿島台地というこの博物館が建っているところで現在,その上に乗っかっているのがハクチョウで未来に飛翔するという意味があります。
さて,これまでの話は理念づくりで,理念を具象化するためにはどうしたらいいかということでいくつか考えたんです。例えば,ナーシングルームをつくった。若いお母さんが博物館に来ないというのがこれまでの定説だったんです。じゃあなぜ来ないのか,おっぱいを飲まして汚したらいけない,おむつを替えるような臭いことはいけない,実際に注意されることもあったんです。そういう人たちのために,部屋を設けて他のお客さんから見えない空間の中で子どもの世話ができるようにしました。それから,地域の人と密着するために,博物館に最も近い存在として友の会とボランティアをつくり,友の会事務室とボランティアルームをつくりました。さらに,学校の先生方がここに来たときに何をどういうふうに学んだらいいかなど,博物館の利用について相談できるインストラクターズルームをつくったんです。最初の設計図にはいま申し上げたのは一つもなかったので,設計し直してもらいました。そのために苦労しているところもあるけれどね(笑)。」
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