■博物館のあり方■
── 博物館での研究面もふくめて,いま博物館に何が求められているか,先生が考えていらっしゃる博物館像についてお聞かせいただけますか?
中川志郎先生
(以下,中川)「いまぼくは日本博物館協会の会長をしているんですけれども,その中で,おっしゃるとおり,博物館は従来の博物館でいいのかという問いかけがあるんですね。博物館には,物を集めて後代に伝えていく最初の大きな目標がある。2番目に,集めた物について研究して物の価値を高めていく目的がある。そして3番目に,研究して得た結果を一般市民に還元していく教育普及です。そういう三つの大きなものがあります。最近,世界的な傾向ですけれども,これらを博物館の2大機能に統一して“コレクション”と“サービス”といっているんです。
博物館は物がないと成立しないので,物を集めることが大切です。集めた物は,博物館のものとして持っているのではなくて,一般市民から委託されて,それを我々がお預かりしているという考え方に変わってきているんですね。したがって,それを研究して価値を高めることは,博物館のスタッフにとって非常に大きな意味があります。しかし,それだけでは研究が内側にとどまってしまいます。調査研究した結果をいかに加工して一般市民にわかるようにするか,アクセシビリティーといいますが,誰でもがアクセスできる形に変えていく作業が重要で,よいサービスにもつながります。
このように考えると,いままでは待っている博物館でしたが,次世代の博物館というのは,博物館側から市民の中に出ていくことが求められるでしょう。市民に呼びかけて必要なものをチョイスしてもらうことができれば一つの理想だと思いますね。よく出前授業とかいわれますが,そういうものがだんだん増えていくだろうと思うんです。利用者が博物館に来る,こちらも出かけていく,それによって,学校と博物館,市民と博物館とのブリッジができる。」
── 昔の博物館は,まさに静的で,構えて,蒐集したものを陳列しているイメージですが,先生のお話を伺うと,博物館の積極的な姿を思い浮かべることができますね。茨城県自然博物館は,市民運動がもとになってできた歴史もありますので,先生のお考えを実践しやすいと思います。また,その経緯自体が近未来的で,これからの博物館像を表しているなという印象も強く受けますね。
中川「そうなんですよ。政治家がつくるとか,例えば美術館ですと地域の有名な画家が亡くなって遺族に残された作品の寄附をきっかけに,というのが圧倒的に多いんですね。ここのもともとの資料は,いまでもありますが,高校の先生方が丹念に集めてきた植物標本とかなんです。そんな例は極めて稀なんですよ。確かにつくるときには政治家が動いたかもしれないし,知事も動いたかもしれないが,おおもとのコンセプトはそれとは無関係のところで進んできたという。」
── 二つに要約されているもの,一つは蒐集・研究というカテゴリーと,研究の成果を教育につなげる,この二つがうまく機能していくといいですね。
中川「コレクションの機能とサービスの機能は,じつは,どっちが欠けても駄目なんですよ。まさに両輪なんですね。」
── ここでは,学芸員で学位を取られた方がいらっしゃいますね。
中川「オープンにあたって人を雇ましたが,そのときにある分野での学位取得者という一行を条件に付け加えると,学位をもっている人が増えるわけですね。そういうやり方のほかに,この博物館の中で勉強しながら仕事しながら学位を取ってもらうというやり方もあります。ぼくたちは,この二つのタイプの後者を選びました。要するに,出来上がった学位をもった先生方をお迎えして守ってもらうよりも,この博物館も新しいので,ともに成長しながら学位を取っていこうと。いま10年目になりそうですが,二人が学位を取って,予備軍が三人ぐらいいる。この博物館に根づいたものです。ところが,大学で学位を取っていると,大学に席が空いたから帰るなんて人もいる。博物館の積み上げてきたものは何だったのかということにもなってしまう。この博物館で非常に苦労しながら勉強して,そして学位を取るとなると,この博物館と不可分の業績なんですよね。最初の頃は博士の一人もいない博物館という陰口が聞かれたこともないわけではなかったんですが,そういうことは博物館の実績とは全然無縁だろうと考えています。」
── 研究面も10年で実ってきたということですね。先生は,いま博物館協会でのお立場上博物館の先導役であるとともに,実際にこの博物館でお仕事をされていて,それがここの充実の要因でもあるのでしょうね。
中川「逆に言うと,この博物館で仕事をやっているから会長になれたんです。おそらく,あんな博物館じゃあって言われたら,誰も会長に推さないでしょう。」
── 先生と茨城県自然博物館も両輪のようですね(笑)。
中川「(笑)まあそうでしょう。」
── きょうは,いろいろと楽しいお話を伺えました。お忙しい中お時間をいただき,有り難うございました。■
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