2003 summer

生命の星・地球博物館
館長 青木 淳一 先生
インタビュー(1)

 生命の星・地球博物館は,1995年3月に,横浜馬車道の神奈川県立博物館(現在の神奈川県立歴史博物館)の自然史部門が独立する形で誕生した博物館です。
 今回は,この博物館の館長であり,日本のダニ研究の第一人者でもある横浜国立大学名誉教授の青木淳一先生に,博物館や教育などについて,いろいろお話を伺いました。

(聞き手:編集部 岡本)

 

■生命の星・地球博物館の特徴■

── では,雑談風でかまいませんので,いろいろお話を伺えたらと思います。先生のご研究の話もおいおい伺うとして,はじめに,博物館紹介ということで,この博物館自体の特徴をお聞かせください。

青木淳一先生 (以下,青木)「横浜の桜木町に神奈川県立博物館という博物館があって,その中の自然科学系の部分だけが独立して,こっちへ引っ越してきたんです。あとの歴史文化系の部分は,神奈川県立歴史博物館という名前になって残っています。向こうは古い銀行の建物で,歴史博物館にはぴったりですが,自然科学の博物館としては手狭だったので,思い切って新しいものを造ろうということになったんです。」

── カテゴリーとしては自然史博物館ですね。

青木「まさに自然史博物館。名前が変わっているでしょ,“生命の星・地球博物館”。ぼくはいろいろな大学で講義しているから,学生に聞いてみるの。『“生命の星・地球博物館”っていうのは,何を展示している博物館だと思う?』と聞くと,学生は,『星とか地球とかだから,天文学の博物館じゃないですか?』と言う人が多いのね。で,来てみたら,動物,植物,岩石・鉱物,恐竜,などがあるんです。非常に変わったいいネーミングだけど,誤解されてしまうんです。」

── 私は横浜市の出身で,自然も歴史も一緒だった博物館に行ったことがあるんですが,そのときには,古めかしい建物だと感じた記憶がありますね。

青木「いまでも,博物館は暗くてカビ臭くて珍しい標本が置いてあるところだと思っている人が多いだろうけれど,ここは明るいでしょ。カビ臭さがまったくない。
 ここでは,46億年前に地球が誕生して,35億年前に始めて生命が生まれて,現在の生命の満ちあふれる緑の地球になった過程をドラマとして展示している,そう思っていただければいいと思います。“生命の満ちあふれる星である地球の博物館”という意味なんです。
 うちの特色としては,写真を撮っていい。ただし個人で利用する場合ね。それから,むき出しになっている標本は乱暴に扱わなければ自由に触っていい。これが珍しいでしょ。獣の剥製なんか触られると,かなり傷んだり油がついてしまったりするんですが,それでもかまわない,実物がそこにあるんだから。
 ぼくが思うに,博物館というのは実物があることが魅力なんですよ。例えば,『クジラを見たことがありますか?』と聞くと,みんな見たことはあると言うけれど,映像でしか見たことがないんですよ。本物のクジラを見たことがある人はあまりいない。博物館は本物が目の前にある。本物はいつまで見ていてもいい,興味のある物は30分でも1時間でもじっくり見てください。鉱物でも昆虫でも,本物の標本を見ていると,『きれいだな,すごいな』と感じて,そのあと,『不思議だな,なぜだろう』といろんな疑問が出てくるんです。そこで初めて解説を読んでもらいたいんです。 」

── 理科教育でも同じようなことがいわれますね。自然と触れ合うことによる直接的な感動が必要なんだと。

青木「本当は,展示してある動物,植物,鉱物も,自然の中で見てほしい。けれど,これだけの物を自然の中で見ようと思ったら,南米からオーストラリアからヨーロッパから南極まで,全部行かなければならない。ものすごいお金がかかるし時間もかかる。それを510円で全部見られちゃう,1日で。」

── 博物館の持っている本物のよさという点について,ほかの博物館では触れるな,写 真は撮るな,ということですけど,ここでは最初から触れていい取り組みをされてきたんですか?

青木「うちの博物館は,バリアフリーというかユニバーサルデザインというか,体の不自由な人,目の見えない人,耳の聞こえない人にも,楽しんでもらうことをコンセプトにしているので,最初はたぶん,目の見えない人に触ってもらおうと考えたらしいんです。でもそのうち,みんなに触らせようということに。やっぱり,子どもは触りたいですよ。サイに触れた,クマに触れた,ということは嬉しいじゃないですか。展示案内には,写 真撮影は自由だとは書いてあるんですが,触っていいとは書いていません。ただ,触ってはいけないとも書いていない。よく『手を触れないでください』と書いてあるけれど,ああいうのはない。」

── 実物主義ですね。

青木「さらに,動物とか昆虫とか鉱物とかいうものを,科学的な興味で見るだけでなく,自然の芸術作品として見てほしいというのがうちの考えです。だから,昆虫標本も分類学的にきちんと並べてはいなくて,彩 りのいいものを寄せ集めて,縦に横に丸にと並べて,非常に芸術的に展示してある。甲虫は甲虫だけ,ガはガだけ,というのではなくて,青い虫だけ集めたり,ひげの長い虫だけ集めたり,いろいろ工夫がしてあるんです。そうすることで,自然物は色も形もこんなにすごいということを見せたい,自然の芸術作品として。鉱物も,そういう心構えで展示してあります。」

── 目に鮮やかで,インスピレーションのわく展示なんですね。

青木「まずは色や形の面白さに感動してほしい,それからのち,いろいろな知識を身につけてほしい。最初は感動なんですよね,初めから理屈や説明じゃだめなんです。」

── いまの子どもは,初めに説明を受けることに半ば慣れちゃっているところもあるでしょうから,逆に,初めに感動のある展示を見るのは新鮮でしょうね。

青木「本や教科書で勉強したものを野外とか博物館に行って実物を見てみよう,というのもいいけれど,本当は,わけのわからない変な物が自然の中にあって,『これ何だろう,きれいだな,すごいな』と感じて,それから説明があると素晴らしいんですよね。」


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