2003 summer

生命の星・地球博物館
館長 青木 淳一 先生
インタビュー(4)

 生命の星・地球博物館は,1995年3月に,横浜馬車道の神奈川県立博物館(現在の神奈川県立歴史博物館)の自然史部門が独立する形で誕生した博物館です。
 今回は,この博物館の館長であり,日本のダニ研究の第一人者でもある横浜国立大学名誉教授の青木淳一先生に,博物館や教育などについて,いろいろお話を伺いました。

(聞き手:編集部 岡本)

 

■博物館の役割■

── 現代における自然史博物館の役割について,お聞かせください。

青木淳一先生 (以下,青木)「博物館の役割というのは最近非常に多様化してきて,社会的要請がものすごく多くなってきた。昔は,珍しいものを並べて,見てもらうというのが博物館だったでしょ。ところがいまは,いろんなことをやらないといけない。まずは,生涯教育。博物館では,生まれてから死ぬ までずっと教育をするという昔からのテーマがありますね。それに最近は,学校教育。学校が週5日制になって,ある博物館では,出前授業といって展示品を持って学校に出向いている。うちは出前はやっていませんが,学校側から来ればどんなことでも相談に乗ります。メニューを作ってくださいと言われるんだけれど,うちではメニューは作らない。決まった定食みたいなものを作って出せば楽は楽ですが,やっぱり学校の先生が生徒からテーマを汲み上げて来てください。生徒が主体ですよね。「こんなことを調べてみたい」という生徒の発案を先生が汲み上げて,ぼくらのところへ来たら喜んで相談に乗ってあげる,それがうちの姿勢なんです。そうすると,学校ごとに違ったテーマになるから非常に面 白い研究・授業ができると思うんですね。とにかく,いろんなことをやっていますよ,いまの博物館は。
 博物館の本来の使命は,やっぱり標本を集めて,それをきちんと保管して,その標本に基づいて研究をする,これが博物館の一番大事な基本的な仕事なんです。学芸員は,自然が大好きで入ってきた研究者です。ところが,そのほかにやることがいっぱいあるからあまり研究に没頭したら困ると言われるんです。研究はやらないといけない,それが博物館の原動力です。学芸員の研究活動が博物館のすべての活動の土台になるということを,ぼくは口を酸っぱくして言っています。
 いま分類学の研究は,大学からほとんどなくなっている。大学では分子生物学が流行で,分類学とか生物地学とか生態学とか基本的な学問は放り出している。それをどこでやるかといったら,博物館しかないんです。博物館が分類学の伝統を守っていかなければならない。アメリカでもヨーロッパでも,分類学の中心は博物館です。だから,博物館の学芸員というのは,分類の研究をしっかりやらないといけない。自然史博物館というのは,本来,研究機関なんですよ。その研究の一部をみんなに公開して見せる,展示はその一部であって,その背後にはすごい標本と研究がある。博物館の研究者は大学の研究者と対等にやっています。 」

── 大学の生物学の研究者たちと同レベルで,博物館でも研究が行われているんですね。最近の社会情勢もあり,博物館という大きな施設があることは否めないですから,それを活用しようという外部からの要請も多いでしょう。野外の実習とか観察会とかは,けっこうやられていますか?

青木「ものすごい数やっています。パンフレットがあって,あれを見ると学芸員も大変だなってわかりますよ。友の会主催のもあるんですが,学芸員もすごく忙しくて自分の研究する暇もないぐらいです。それでも研究はしなさいと言っています。」

── そうすると,大学の研究者よりも忙しいんじゃないですか?

青木「博物館は,学生がいなくて学生実習や講義がないぶん暇じゃないかって言われるけれど,とんでもない。 ぼくも,最初の勤めが博物館なんです。国立科学博物館に11年間いました。科博では,特別 展や企画展が年数回ありますから,みんな研究員が展示を手伝うわけですよ。ぼくはダニの研究をやっていたからあまり駆り出されなかったけど,哺乳類とか鳥類の研究者は大変でしたよ,しょっちゅう展示にかかわらなければいけませんからね。 」


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