■最近の恐竜事情■
── 最近の恐竜について,面白い話題があればお聞かせください。
濱田隆士先生
(以下,濱田)「いま,恐竜は,爬虫類なのか鳥類なのか,それとも新しい生物群なのか,わからなくなってきているんです。毛の生えた恐竜っていうのは,ナンセンスでしょ。(笑)だって,爬虫類だったら毛が生えていたらいけないんです。変温動物でなくてはいけない。いまのヘビやトカゲ,ワニなんかと同じでなきゃいけない。ところが,中国で毛の生えた恐竜,“有毛恐竜”というのが発見されて,最近は小形の恐竜にはほとんど毛があったということになっています。毛が生えていたら温血動物に近いわけです。すると,恐竜の分類単位
がわからなくなってくる。30mもあるスーパーサウルスとかマメンチサウルスには毛はないと思うけど,ないと思うというだけであって実際はわからない。
実物を触ったり掘ったりするという経験は,何よりも大切なんですね。僕はいつも思うんだけど,IT型という言葉がありますね。日本人は,読み書きそろばんといって,計算は得意中の得意でしたが,いまは子どもだって訳もわからずにブラックボックスのコンピュータをいじっているわけです。しかし,それを扱うべき先生は,特にお年寄りだと全くわからない。ちょうど僕らの年代は従来型の教育で,最近の人たちはIT型の教育が行き届いています。だから,効率がよくなってきた,スピードは上がるし精確であるし。ただし,数値を入力しなければシミュレーションにならないし,シミュレーションはあくまでシミュレーションであり現実ではありません。虚構を追うことが,さも実物であるかのごとく錯覚しがちで,恐竜だって,映像や絵,模型はありますが,誰も実物は見たことがないんですね。
」
── 特に,恐竜の研究は,虚構を追うという要素が大きいですね。
濱田「大きいですよ。だから,恐竜模型を子どもが見て,『わあ,本物みたい!』と言うけど,『本物なんて見たことあるの?』って聞きたくなるぐらい,錯覚してるんですね。」
■実物と虚構■
── ほかの学問は,もっと実物に触れて性質なり生態なりを調べることができますが,古生物の場合は,得られる情報が限られていますからね。
濱田「コンピュータをやることはいいんですよ。むしろそれは大切なことですが,片方の実際に物を扱うということを忘れてしまうと駄
目なんです。車の両輪といいますね,あるいは裏表といいますね。物事には二面
性があって,その両方を見ないといけません。それをうまく組み合わせていくと,もっと日本の科学離れ,理科離れが防げると思います。
いまの子どもは鍵っ子が多いでしょ,そうすると,一人でゲームやパソコンをやっている。その世界だけの自己満足になって,頭の中が空っぽになっちゃう。多様性ということからは,どんどん離れてしまう。理科の場合,実物と接することや,実際に野外に出ることが大切ですね。
」
── 化石の調査研究も同じかと思いますが,実際の物を見ることと,そこからのイマジネーションの世界とが,両輪になって研究が進むんでしょうね。
濱田「例えば,イメージ先行で研究していたら,実際に物が出てきて,じつは違っていたとか,現場にいるとよくわかります。」
── 恐竜博物館は,実物とイマジネーションとの融合が展示にも表れていますね。
濱田「それは,嬉しいことですよ。素材のよさとアクティビティ,大勢の人たちの共同作業がつくり上げた成果
でしょう。」
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