2004 summer

名古屋市科学館
館長 樋口 敬二 先生
インタビュー(1)

 名古屋市科学館は,名古屋市の市政70周年を記念して建てられました。1962年11月に天文館,64年に理工館,そして89年には生命館が開館しました。
 今回は,この科学館の館長であり,雪や氷河の研究でも著名な樋口敬二先生に,科学館の特色や教育への関わりなどについて,お話を伺いました。

(聞き手:編集部 岡本)

 

■博物館と科学館との違い■

── では,先生,よろしくお願いいたします。いままでは動物園とか博物館について取り上げてきましたが,科学館という施設を紹介するのは今回が初めてになります。

樋口敬二先生 (以下,樋口)「それならちょうどいい。まず第一に,いったい博物館と科学館とはどう違うか,という基本的なことから話しましょう。
 博物館というのは大英博物館のように歴史が古いわけで,数もたくさんあるわけです。だから,博物館のコミュニティは,歴史が長くて,広いんですね。それに対して科学館というのはわりと新しい。いちばん古いのがせいぜい100年弱ですよ。歴史が新しいんです。
 名古屋市科学館は,“ナゴヤ・シティ・サイエンス・ミュージアム”と英語に訳しているんです。ところが,国際的な理解からいったら,ミュージアムではないんです。では,英語で“ミュージアム”としたのはなぜかというと,日本には“センター”という名称の施設がものすごくたくさんあるでしょ,科学技術センターとかゲーム・センターとか(笑)。それと間違えられるといけないので英語に訳したときに“サイエンス・ミュージアム”としたんですが,国際的な理解では,“サイエンス・センター”あるいは“サイエンス&テクノロジー・センター”です。こうした施設は数が少なくて,日本で,博物館と称するのが約2400あるのに対して,科学系博物館というのは300,科学館は180ぐらいで,我々科学館というのは,歴史的にも短く,世界的にも数が少ない。だから,博物館の世界からすると,新人なんですね。新しい存在なんです。
 基本的に何が違うかというと,いままでの博物館は,まずはいろいろな資料を収集するわけですね。それを整理して,保管して,調査や研究して,そしてその成果 を展示する。これが典型的なミュージアムです。つまり,標本・資料があるというのが基本なんですよ。
 ところが,ご覧になってわかる通り,科学館にはそういう標本はなくて,むしろ展示が出発点となっています。この展示は,ハンズ・オン,つまり参加体験型です。かつてのミュージアムは,触ってはいけませんというのが主流でした。ハンズ・オフです。それに対して,科学館は,体験していろいろなことを理解しましょうという趣旨で,ハンズ・オンなんです。博物館と科学館とでは,このオフとオンの違いがいちばん大きいわけです。」

── 近ごろは博物館もだんだんハンズ・オン的に見せつつありますね。

樋口「それは最近の動きなんですよ。基本的にはミュージアムにあるのは貴重な資料だから,ハンズ・オフです。だから,ハンズ・オンをやっている博物館は,標本のモデルをハンズ・オンにしているところが多いんです。
 いま我々科学館が大事にしていることは,その次なんです。ハンズ・オフからハンズ・オン,その次がマインズ・オンです。何かをやろう,例えば,調べようとか,作ろうとか,そういう気持ちを起こさせるのが大事だと思っています。
 ここで,逆に言うと,実物や標本がないというのは,弱味でもあるわけです。物そのものというのは,ある面 では迫力をもっていますからね。動物園とか水族館とかがうらやましいのは,動物や魚それ自身が動いて演技をやってくれるでしょ,子どもも 大人も面白いわけです。ところが,ハンズ・オンの展示品は一種の装置ですから,操作が必要なわけで,どうしても実物の迫力がないんですね。そこで,名古屋市科学館では,名古屋市に科学博物館がないこともあって,博物館的な機能を補うために,『むし虫ワールド』のような実物標本を 集めた特別展を開くんです。」


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