2004 summer

名古屋市科学館
館長 樋口 敬二 先生
インタビュー(2)

 名古屋市科学館は,名古屋市の市政70周年を記念して建てられました。1962年11月に天文館,64年に理工館,そして89年には生命館が開館しました。
 今回は,この科学館の館長であり,雪や氷河の研究でも著名な樋口敬二先生に,科学館の特色や教育への関わりなどについて,お話を伺いました。

(聞き手:編集部 岡本)

 

■名古屋市科学館の特色■

── これまで科学館一般の話を中心にお聞かせいただきましたが,名古屋市科学館の特色というと,どういう点になりますか。

樋口敬二先生 (以下,樋口)「次の4つが名古屋市科学館の基本理念です。
1 科学の原理と応用を理解し,その面白さ,楽しさを知っていただく。
2 人間と科学技術との関わりを考えていただく。
3 社会的に関心の大きな問題について,科学技術的な理解をはかる。
4 市民に科学を通じた生涯学習の場を提供する。
 2番目は,いわゆる博物館とは違うところで,非常に大事なわけです。文明を支えているエネルギーシステムとか通 信システムとかがどんな仕組みになっているのか。我々人間の生活と科学技術との関わりを考えていただくいろいろな体験型の展示があります。」

── 館内を見させていただいたんですが,けっこう実生活に役立つような展示が多い気がしました。

樋口「多いですね。我々の文明を支えている科学技術について,できれば原理まで伝えられればいいのですが,必ずしもそこまでいっていないのが現状です。けれども,少なくとも身近な物にどういった科学が生きているかということを理解し,考えていただくようにしています。
 3番目は,例えば,遺伝子操作がそうですね。いろいろな環境問題や生命倫理など,社会的に関心の大きな問題は,知識をもった上でイエス・ノーを言ってもらわないと困るわけです。遺伝子なら生命倫理もふくめてどこまでが危ないのか,環境問題でもごみの分別 一つをとっても科学的な知識をしっかりもって考えないと結局は根づかないことになります。」

── この特色も常設展示という形で行っているのですか。

樋口「常設展示のものもありますし,特別 展で行うものもあります。一例を挙げますと,名古屋大学の野依良治さんがノーベル化学賞をもらった,そのときにこの科学館ではノーベル賞の企画展をすぐに開いて,野依さんはどんな仕事をして,どういう人かということを取り上げました。これは,社会的に関心の大きな問題であると同時に,最先端の研究の紹介でもあるわけです。
 いままでの科学系博物館が取り組んできたのは“PUS(Public Understanding of Science:基礎的で確立された科学に対する公共の理解)”ですが,これから求められるのは“PUR(Public Understanding of Research:最先端や進行中の研究に対する公共の理解)”であり,野依さんの例は“PUR”になります。
 また,“PUR”であり,同時に社会的に関心の大きな問題として,環境問題がありますね。例えば,地球の温暖化とか都市の環境変化とかがあるわけですが,いま開催している『むし虫ワールド』でも,“プールのやごを救え”という展示があって,学校のプールのやごを救う活動を紹介しています。」

── よく話題になりますね。学校のプール開きの前にプールの清掃があって,そのときにやごがいるケースが多いようですので。弊社が発行している新しい教科書でも,発展的な学習として紹介しています。

樋口「(新しい教科書を見て)ははあ,“やご救出作戦”と書いてある,これは面 白いですね。ところで,これは大きな環境問題なんですよ。我々が子どもの頃なら,やごは川とかの水辺にいたものなんです。だから,これは,都市でいかに水辺がなくなったかという問題であり,同時にプールが水辺化しているわけです。
 しかし,人間の衛生上いいのかという声もあると思います。学校のプールは夏しか使わないから,それ以外の時期はどうしても放っておくと虫がわきます。虫がわくような場所はよくないと思っている方があり,保護者のなかには虫が嫌いな人もいるでしょう。その人にしてみれば,プールの水をいつもきれいにして消毒剤を入れておかないと,不安になるかもしれませんね。
 これはまさに,虫と人間との共存の問題,環境問題なんですよ。それが,教科書にも載っているとは知らなかった。」

── ただ,教科書で取り上げている活動では,そこまで環境問題について深くふれてはいないんですよ。

樋口「そういうものを環境問題としてとらえて,生き物がすんでいるのはどんな環境で,それに対して人間はどんな打撃を与えているかを考えたりするのが大事なんですが。」


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