2004 summer

名古屋市科学館
館長 樋口 敬二 先生
インタビュー(3)

 名古屋市科学館は,名古屋市の市政70周年を記念して建てられました。1962年11月に天文館,64年に理工館,そして89年には生命館が開館しました。
 今回は,この科学館の館長であり,雪や氷河の研究でも著名な樋口敬二先生に,科学館の特色や教育への関わりなどについて,お話を伺いました。

(聞き手:編集部 岡本)

 

■学校との連携■

── 学校との連携について,具体的な取り組みがありましたらお聞かせください

樋口敬二先生 (以下,樋口)「はい。一つは“出前サイエンスショー”と称して,科学館でやっていて普通 の学校ではできないような実験,例えば,高電圧の実験とか,液体窒素を使った極低温の実験とかですね。そういうのは学校でできないものですから,うちのチームが学校に行って見せるわけです。
 それから,もう一つが“出前ものづくり工房”です。科学館では,土日に“ものづくり工房”と称して,簡単なものを子どもに作ってもらっているんです。土日は科学館に来てもらっているんですが,逆に,ボランティアの方々や職員が学校に行って,簡単なものを作って,原理を考える。そういうことを学校との連携として取り組んでいます。
 特に,この“出前ものづくり工房”は,出前で見てもらい興味をもってもらって,詳しく知りたいときは科学館に来てもらうという流れをつくらなくてはいけないですね。ただ外に行ってやるだけなら,その場で終わってしまうでしょ。大事なことは,それをきっかけにして,子どもたちに科学館に来てもらう,先生方にも科学館を教材に使って授業を活性化してもらうことです。だから,学校に行ったときに,おみやげとして小さなパンフレットを持って行くんですよ。子どもたちがこのパンフレットを見て,どういうことを科学館でやっているのかを知ってやって来ることができるようにしています。
 じつは,ついでに言えば,ものづくりを始めたのは,地元の特徴でもあるんです。ここ名古屋市付近の地域はものづくり地域でしょ。だから,手に職をもった方々の支援もあるし,また,ものづくりをすることで社会的な要請にも答えている。科学館と地域との連携というのは,科学館が地域の特徴と結びつくわけです。サイエンスショーならどこの科学館でもすると思いますが,ものづくりに取り組んで,しかもそれが地域に支援されているというのが,ここの特徴ですね。ものづくりに対する理解があるんですよ。」

■地元企業の協力■

── 地域は,どのような形で博物館にかかわっているんですか。

樋口「ボランティアという形もあるし,民間企業から資金的な援助もある程度もらっています。展示のなかでも新しいもの,電柱作業とか新幹線の改札とか,展示品の提供は産業界の協力ですね。」

── 地元の企業が科学館に協力しているということですか。

樋口「それはなぜかというと,この科学館は,市制70周年記念の事業として,産業文化都市・名古屋の施設としてつくられたので,スタートのときから地元の産業技術との関連が深いんです。その後,総合的な科学館に発展しましたが,いまでも産業界との技術的・経済的な協力体制が強いんです。
 また,名古屋市を中心としたこの地域の特徴として,産業技術が基盤になっているのと同時に,それを次の世代へ伝えようということで,産業観光が熱心なんですよ。」

── 産業観光というのは何ですか。

樋口「自然景観や歴史伝統に加えて,機械や器具,工場などの産業文化財にふれる体験学習の要素を加えた観光で,系統別 に産業の施設展示のネットワークをつくるんですね。もちろん,うちの科学館も産業観光のモデルコースの中に入っています。」

── 非常に多くの企業から協力いただいているんですね。

樋口「先に紹介した“出前ものづくり工房”も,最初は地元の経済界の資金的な協力によって館内で発足し,成果 が上がったので,教育委員会の予算によって学校への“出前”として発展したのです。」


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