2005 autumn

旭川市立旭山動物園
広報 山崎 哲夫 さん
インタビュー(2)

 入園者数が今年の7月だけで27万5000人(全国第一位 )と圧倒的な人気を誇る北海道の旭山動物園。
 今回は,大人気を博するに至った経緯や,ユニークな展示の仕方について,広報の山崎哲夫さんにお話を伺いました。

(聞き手:編集部 岡本)

 

■14枚のスケッチ■

── 14枚のスケッチによって,どういった施設が実現されたんですか?

山崎哲夫さん (以下,山崎)「一つの施設に複数枚のスケッチがある場合もありますから,実現されたのは全部で八つの施設になります。
 例えば,『もうじゅう館』という施設があります。猛獣は本来,夜行性ですので,昼間は寝ていて当たり前です。そこで,ユキヒョウの部屋に工夫を凝らしました。ヒョウは高く風通 しの良い場所を好むので,ヒョウの部屋を下が柵状になったバルコニー構造にして,ヒョウが寝ている姿を下から見られるようにしたんです。これは,寝ている姿も驚きをもって見られる工夫ですね。  また,『ぺんぎん館』という施設があります。ペンギンはヨチヨチ歩いていますが,泳ぐと素早いんです。これを見せるために,ペンギンが泳いでいるプールの中に,人が歩ける円柱のチューブをつくりました。このチューブの中からは,ペンギンが目にも留まらぬ 速さで水中を泳ぐ姿が見られます。
 『おらんうーたん舎』という施設もあります。オランウータンは,もともと高い木の上で生活し,地面 には滅多に降りてこない動物です。しかし,以前は四角い箱の中での生活でしたから地面 に降りざるを得ない状況でした。そこで,何とかして高い場所で生活させたいという願いから,高さ17mの偽木を2本立てて間を鉄柱を通 したところ,オランウータンは偽木に登って綱渡りするようになったんです。この効果 があってか,これまで雌には見向きもしなかった雄が子どもをつくるようになりました。この施設は,ズーネットワークという動物好きが集まった団体から,動物にやさしい施設だとして,施設部門大賞を受賞しています。
 『ほっきょくぐま館』では,大きいプールの横を透明にして,水中を泳ぐホッキョクグマが見られます。ホッキョクグマが毛をたなびかせながら水中を泳ぐ姿は,とても美しいんです。また,地上にはドーム状の窓を設けてあります。そこから人が顔を出すと,ホッキョクグマは息継ぎをするアザラシだと思って攻撃してくることがあるんです。
 『あざらし館』では,流氷間の狭い通路を通るアザラシの習性を利用して,プールにつながっている縦のチューブ内をアザラシが泳ぐ姿を見られるようにしています。加えて,アザラシは人懐っこいですから,人の存在に興味をもって来ることもあります。」

── 先ほど「あざらし館」を見させてもらいましたが,非常に頻繁にアザラシがチューブ内を通 りますね。

山崎「アザラシにしてみたら,今日も人が来ているな,という感じでしょうね。非常に間近で見られるので,あしの指が5本であることもわかります。本当はそういうところも見てほしいですね。
 ほかには,『ととりの森』と『さる山』ですが,どれも動物を間近で見られるというコンセプトがあります。その動物を前にして,素晴らしい能力を見ることができたら,それは驚くだろうという考えがスタートにありますね。」

── 旭山動物園は「大人が楽しい施設」という発想で取り組まれてきたということですが,初めに造られた「こども牧場」にも,その発想は生きているんですか?

山崎「平成元年頃に描かれたスケッチのうち,実現した14枚について説明してきましたが,どれも動物を間近で見て命のぬ くもりを感じられることを大切にしています。『こども牧場』は,子ども主体にはしていますが,決して大人にとって楽しくない施設ではなく,このコンセプトに立っているという点では同じです。
 実現した14枚のスケッチのほかにも,まだまだ多くのスケッチがあるそうです。ご覧いただければわかりますが,ゾウやカバなどの施設は昭和42年のままで手がついていません。入園者数が増えたとはいえ,地方財政が厳しいなか,次をつくろうという話には現在なっていません。」


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