■安い入園料を維持した運営■
── 日本一を誇る動物園でも財政は厳しいんですか?
山崎哲夫さん
(以下,山崎)「入園者数が100万人を超えても赤字なんです。北海道の動物園では,中学生以下は無料ですから,580円の入園料を支払っていただけるのは全体の3分の2程度の人になります。入園料については,外部からの問い合わせで,そんなに安いんですか!?
という声もありますが,開設の趣旨にもとづいて,現在も安価で市民に施設を提供しています。それに,ここは文教施設ですから,博物館や科学館が収益を問われないのと同じく,採算だけを考えても仕方ありません。」
── 確かに,採算をどうするかも大切ですが,動物園などは,公的施設としての貢献を考えるほうが大切かもしれませんね。
山崎「ええ。最近は,旭山動物園に観光客がどんどん押し寄せていますから,間接的な経済効果
もあるかと思いますが,それはおいといて,動物たちの本来もっている素晴らしい能力を見せることによって,入園者数が26万人から145万人になったという点を評価してもらいたいですね。来てもらい,見てもらい,楽しんでもらえれば,それでいいのです。」
── 先ほど,リピーターが多いという話がありましたが,どのようにして調べているんですか?
山崎「旭山動物園には,年間パスポートがあります。これは,4月から翌年3月までの1年間,何回でも入園できる券で,1000円で販売しています。この券を買うのが,リピーターということになります。1000円にしたのは,子どもと動物園に来たとき,あと1回なら来るが2回は来ないだろうと思う親が多いと考え,2回を超えない金額にしたんです。ところが,統計をとったところ平均は2.5回,つまり半数は3回来ているんですね。
じつは,これが入園者数の増加にかなり寄与しているんです。動物園によい施設をつくっても,初めは誰も知らないし,旭川市営ですから広告予算もゼロで知らせる手段が限られています。ところが,パスポートを持っている人が,動物園に新しい施設ができたことを近所に話すんです。このことによって,ほかの人も訪れるようになるんです。口コミの力ってすごいですね。特に,『ぺんぎん館』ができたとき,評判が一気に広まったのには驚きました。開館して,ペンギンがすごい速さで泳いでいる姿を見られることが知れ渡ってから,押すな押すなの大行列でした。最近は,いろいろなバスツアーが多いですが,この状況はじつは一昨年からで,3年前までは鼻にもかけられませんでした。市営ですから旅行会社にマージンも支払えず,旅行会社も敬遠していたようです。ところが,ある会社が“旭山動物園ツアー”を企画したところ,大当たりしたらしく,それから大手旅行会社にも声をかけられるようになりました。しかし,最初に話題になったのは,やはり入園者による口コミですね。」
── 全国的に知名度が上がって入園者数が増えるのは好ましいことなんでしょうが,市営の文教施設としては,地元旭川の人たちに観てもらうことがいちばんの目的になるんでしょうね。
山崎「現在,旭川の入園者数は2割ですね。札幌が2.5割,ほとんどは道内ですが,道外も1割います。平成7年度から統計をとっていますが,初めは旭川が7割だったんです。ところが昨年度,ついに札幌が旭川を上回りました。」
── 飼育員の方が積極的にかかわっているという話でしたが,これは飼育員の方の自発的な取り組みなんですか?
山崎「先ほども話したように,動物園をなくしたほうがいいという話になったこともあるので,飼育員にしたら,自分たちの好きな動物園がなくなってしまわないように何とかしなければという気持ちからでしょうね。ですから,当時からいる職員には,いまでも危機感がありますね。ああしたら,こうしたらと,毎月議論していますよ。飼育員のなかでも,絵がうまい人は絵を描いて,話がうまい人は話をして,分担してやってきたそうです。そして,いまでも続いているのが,『ワンポイント・ガイド』です。これは,自分の担当している動物について,日曜日と祝日のきまった時刻に30分ぐらい行う解説です。また,『もぐもぐタイム』といって,えさを与えるときに飼育員が動物の生態を解説する時間が,毎日15回ぐらいあります。園内のいたるところに立っている看板は,すべて手書きです。きちんとした看板は立派ですが,お金がかかって更新できません。手書きの看板であれば,いつでも新しい情報を提供できます。旭山動物園では来るたびに情報が変わっていることを心がけていて,このことは,入園者が再び来る動機にもつながっていると思います。」
──「ととりの森」にも,手書きの看板がたくさんありましたね。
山崎「子どもには不要かもしれませんが,大人は解説がないと納得しませんからね。」
── 手書きの看板は,即時性と予算面,両方の課題をクリアしているんですね。
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