2006 autumn

科学技術館
館長 有馬 朗人 先生
インタビュー(2)

 科学技術館は,日本の科学技術や産業技術に関する知識を広く普及・啓発する目的で,財団法人日本科学技術振興財団が設立した施設で,昭和39年4月に開館しました。
 今回は,館長の有馬先生に,科学技術館の特徴や将来,科学館の社会における役割,日本の科学教育の現状と課題など,さまざまなお話を伺いました。

(2006.7.31 聞き手:編集部 岡本)

 

■学校で教わったことを身につける■

── 今お聞かせいただいたお話から,先生の教育へのかかわり方がよくわかりますね。先生は,理科教育・科学教育が現在抱えている課題をどうとらえ,今後どのようなアプローチでとりくむべきと考えていますか。

有馬朗人先生 (以下,有馬)「私が東大の総長のころ,1990年ごろに理科離れが話題になって,『カブトムシが死んだから電池を換えてくれ』という話まで聞かれた。それが本当なら大変だと思い,総長を辞めた1994年から5年間,北九州と代々木の青少年オリンピックセンターで,理科の実験教室を夏休み中の3日間行った。これが皮切りでしたね,合宿でやるというスタイルの。
 そのころは,中教審(中央教育審議会)で土曜日を休みにする方針を出した。学校では徹底的に基礎・基本を教え,土曜日は,子ども達の体力が落ちているから野外を駆け回って体力をつけるとか,自分の好きな勉強をするとか,学校で教わったことを身につけるようなことをやろうした。例えば,家で模型を作る,野原で自然観察をする,社会体験をする,そういうことを土曜日にやりなさいと言ったわけです。お父さん・お母さん・お爺さん・お婆さんが,工作や理科実験を指導してくださるとか,その地方の歴史・地理の話をしてくださるとか,そういうことをしてくださいと言ったら,新聞社は,社会にそういう力はないと言う。
 そこで,私が1994年から実験教室をやることにして,米村さんやガリレオ工房に手伝ってもらいました。それ以来,米村さんとの付き合いがあって,今はここで週1回やってもらっています。ガリレオ工房は1991年ぐらいから“科学の祭典”をここでやっていますね。
 日本人は,せっかく子どものうちはたくさん教わって成績がよくても,大人になるとみんな忘れちゃう。大人の科学知識は,OECD諸国の中で13番目,OECD平均よりも低いんです。子どものうちは1番からわるくても5番,それがどうして大人でわるくなるか非常に気になっていました。    おそらく,小・中学校の先生方がわるいんじゃなくて,社会の教え方がわるい,生涯学習ができていないんですね。だから,子どもたちにも体験をきちんとつけさせて,せっかく覚えたことを忘れないようにすることが必要で,それが本来の“ゆとり教育”です。
 ところが,近ごろは学力論争ばっかりで,ひと昔前のように覚えろ覚えろとうるさく言われる風潮にある。そんなに覚えろと言ったって,そう言う大人が覚えていない。大人も含めて,せっかく覚えたことを使えるようにする,考える力を養成する必要があります。中教審でも,考える力を「生きる力」の第一に掲げました。自分で課題を見つけ,自分で勉強して,自分で解決していく力を身につけるために,土曜日を使ってほしいんです。
 1994年当時,ガリレオ工房や私ぐらいしかやっていなかった日曜教室・土曜教室が,最近,にわかに増えてきた。大学も,子ども獲得のために一生懸命になってきた。そして,文部科学省も“科学技術・理科大好きプラン”を始めて努力するようになった。15年ぐらい前にはそういう勢いが社会にまったくなかったが,ずいぶん変わってきました。よくなってきたし改善されてもいると思いますが,先ほど申しましたようにOECDのテストの結果 を見ると,依然として大人に試験をしたら科学知識は低いでしょう。20歳から60歳までを対象に,1991年・2001年と2回調べているが,どちらもOECD諸国の中で13番目。子どものころの成績が圧倒的にわるいアメリカが,大人になると圧倒的によくなる。日本の教育はどこかがおかしいのですね。(笑)」

── 学校教育そのものに科学教育の課題があるというよりは,社会教育のほうに,より大きな問題があると考えたほうがよいのですね。


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