2006 autumn

科学技術館
館長 有馬 朗人 先生
インタビュー(3)

 科学技術館は,日本の科学技術や産業技術に関する知識を広く普及・啓発する目的で,財団法人日本科学技術振興財団が設立した施設で,昭和39年4月に開館しました。
 今回は,館長の有馬先生に,科学技術館の特徴や将来,科学館の社会における役割,日本の科学教育の現状と課題など,さまざまなお話を伺いました。

(2006.7.31 聞き手:編集部 岡本)

 

■問題は大人のリテラシー■

── 先生は“ゆとり教育”を掲げられましたが,学校で基礎・基本を学び,それを土日の家庭教育・社会教育で高めていくということは,文科省も一貫して言っていますね。ただ,最近は“学力低下”が声高にさけばれ,論調は少し詰め込み教育へシフトしている感がありますが。

有馬朗人先生 (以下,有馬)「子ども達の学力が低下していると思いますか。2001年に旧学習指導要領で,2003年に現行学習指導要領で,それぞれ教育課程実施状況調査をしたら,同じ問題でみると今のほうがはるかによい。特に理科は全然下がっていない。他の科目も旧学習指導要領と比べて,同じ問題でみる限り今のほうができるという結果 が出ました。」

── それは,“ゆとり教育”としてやってきたことの成果 とみることもできるわけですね。

有馬「そうです。理科は成果が出ています。文科省の“科学技術・理科大好きプラン”の成果 ともいえます。2001年より2003年のほうがよいという調査結果が2004年3月に出て,マスコミは困っちゃって,『少しよくなった。それは,学力低下と言われたことで先生が頑張ったからだろう』などと言う。(笑)」

── 教育の成果は,そんな一朝一夕にみられるものではありませんからね。

有馬「今,非常に心配なのは,子ども達に元気がない。学力低下としつこく言われるから,『私達は学力が低下しているんでしょうか,“ゆとり教育”によって頭がわるくなったんでしょうか』と相談にくる子どもがいる。学力低下したとか,日本の先生の教え方がよくないとか,そういうことばっかりマスコミは言うし,ついには文科省まで心配しだした。先生の資格認定を見直そうなんて言うから,先生だって嫌気がさしている。そして、保護者が公教育に大丈夫かなと動揺しています。」

── 一種の不況宣伝みたいなものがはびこっている。

有馬「『お前らダメだよ』と言ってばかりではダメ。日本の子ども達がいかに成績がよいかをきちんと認識して,日本は大丈夫だと言うこと。日本の先生は優秀なんだと褒めたい。私はあちこちで先生に『みなさんは大丈夫,自信をもってください』と言っています。
 さて,日本の教育は,詰め込みでは非常に成功してきた。知識をうんと教えるという点で成功してきたから,国際比較をやると,シンガポール・日本・韓国・台湾は必ず上位 にくる。ところが面白いことに,シンガポールは15年間かけて教えることを3割減らした。その理由は,物事を覚える詰め込みではなくて,originality(独自性)と creativity(創造性)を伸ばすため。教えることを3割減らしたが,国際的調査で成績は依然1番かそれに近い。しかも勉強が好きですね。ところが,日本や韓国・台湾は,成績は猛然とよいが勉強嫌いです。『覚えろ,覚えろ,覚えろ』と言われ,知識で勝負する。だから,強いけど嫌いになり,OECDで大人の科学的リテラシーについて調査すると結果 が低くなる。問題は,大人のリテラシーです。学校で覚えたことが大人になってきちんと使えるようになっていない。」


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