■科学館の役割■
── 現在,科学館には何が求められているのでしょうか。
有馬朗人先生 (以下,有馬)「科学館は,大人が子どもと一緒に科学を楽しむ機会を与えるという役割をもっています。日本では,科学が文化になっていない。子どもが修学旅行で来るだけではダメで,大人が子どもを連れて科学館に行き,大人も楽しむようにならなければなりません。この点で成功しているのが,出雲市の科学館です。出雲市では,今の市長が苦労してなけなしの金で科学館をつくり,そこが小学校・中学校の理科教育を一手に引き受けています。これは,非常によくやっている例の一つです。科学館が,理科の教育の中心になっている。特に,小学校の先生だけだと時間的にも設備的にも余裕がないから,科学館が手伝っています。大人も年中やって来て生涯学習の教室に出席しています。市民が熱心で,かなり科学館に溶け込んでいる。館長も市長も熱心で,非常に成功しています。
このように,科学技術館の大きな役割は,市民がもっと科学技術に関心をもつようにすることであり,子ども達にお父さん・お母さんがどういう仕事をしているのかを知ってもらうこと,親の背中を見せることだと思います。私が勤務している科学技術館では,産業界に,働いているお父さん・お母さんの姿を示してくださいと言ったところ,産業界も積極的に手伝ってくれるようになりましたね。」
■科学技術館の特徴■
── 科学技術館の特徴を教えてください。
有馬「科学館は,だいたい国がやっているか,県や市がやっています。国がやっているのは国立科学博物館と日本科学未来館の二つ。それに対して,ここは,産業界からの支援で成り立っているのが特徴ですね。」
── ここは,財団法人ですね。
有馬 「そうです。1960年当時,日本の国力はまだ非常に貧乏だった。やっと敗戦の疲弊状態からやや立ち直ってきたころ,国よりも産業界のほうが強くて,産業界が中心になって日本の科学技術を立て直してきました。日立や新日鉄など産業界の人たちが『日本の科学技術を何とかしなければ』と大変心配し,子ども達の教育を含め市民教育から始めようと,この館を建てたんです。また,科学技術を中心にした放送,つまり,民放で科学技術系の教育テレビもやろうとしたが,それは失敗しました。初期には企業が熱心にやってお金があったから,立派な建物を建て,自動車業界・建設業界・電力業界など,業界別
の企業団体が展示も出しました。これは,ある意味でユニークだが,逆に言えば全体を通
した思想が十分ではありません。」
── なるほど,トータルコンセプトがないんですね。
有馬「私が会長になるまでは,経団連の名誉会長が館長をやることになっていました。しかし,国のほうが新しく日本科学未来館をつくり,ここの在り方が問われることになった。そこで,もう一度,科学技術の専門家にやらせろということで私が呼び出されたんです。それまでは本当に産業界が中心だったが,私になって,官の力も借りようと取り組んでいます。以前は産業界だけでやってきたけれども,今はあくまでも経団連が中心になった経営をしつつ,学会や大学の力も借りようと努力しています。私が理化学研究所の理事長だった1995年ごろ,科学技術庁長官の田中真紀子さんが理研に来た際,科学技術館に少し新しい展示を入れたらどうかと進言したところ,科学技術館の一部改修を手伝ってくれと言われ,4〜5階を手直ししました。そのときは,基礎科学から応用までを含めた一つの思想を通
して展示をつくりました。また、ある程度はバイオ技術も入っていますが,まだまだ不十分ですね。」
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