黒い瞳

黒い瞳
- ファイナ・ブラゴダーロワ著/佐伯靖子訳
- 四六判 448頁
- 2002年10月 発行
- ISBN 978-4-316-37990-6
- 品切れ
商品内容
ロシア版『風とともに去りぬ』と評された名作小説の日本語版!!
苦難に耐え,強く生きるマリーナの姿は,
人びとに勇気と元気を与えます!
→「ダ・ヴィンチ」「産経新聞」「読売新聞」書評等で絶賛!
絶賛
アメリカのロシア人社会で「ロシア版『風とともに去りぬ』」と絶賛され,ロシアでは元ロシア大統領府長官フィラトフ氏が主宰するロシア社会経済及び知的プログラム財団発行「20世紀・成熟と変容選集」への収録が決定した『黒い瞳』の日本語版刊行!現在アメリカでは,英語版の翻訳が進行中。
原作
原作者ファイナ・ブラゴダーロワさんは,1931年,レニングラード(今のサンクトペテルブルク)に生まれたユダヤ系のロシア人女性。スターリン政権下でさまざまな辛酸をなめ,のちカナダに移住。レストランを経営するかたわら歌手として成功し,現在はアメリカで執筆活動を行っている。『黒い瞳』は,そのファイナさんの数奇ともいえる体験を小説にしたもので,主人公に襲いかかる事件の数々は,読者を一挙に現代史の渦中に引きずり込まずにはおかない迫力をもっている。
視点
訳者の佐伯靖子さんは,「スターリン時代の恐怖については,既にいくつかの回想記が出ていますが,インテリや特権階級ではない書き手が,一人の女性の生き方に視点をおいて自伝的小説にまとめたものは,初めてといってよいのではないでしょうか。」と語っている。
共感
また,NHK解説委員で,作新学院大学教授の小林和男さんは,「誰も信用できない暗い社会,物言えば唇寒しどころの生易しさではない。『黒い瞳』はその時代を生きてきた感性豊かなユダヤ人女性が,体験したことを綴った作品である。……『なぜ私を苦しめるのか』という言葉が,主人公ならずとも読む者からも出るだろう。」と本書の解説で述べている。
海外での評価
◆ファイナ・ブラゴダーロワの『黒い瞳』に最も近い小説は,アメリカの作家マーガレット・ミッチェルの『風とともに去りぬ』である。
『黒い瞳』は,聡明で感受性が強く,同時に非常に強い意志の持ち主である一人の女性の生き様を通して,歴史のカンバスに浮かび上がった,善と悪の物語である。
◆レニングラード封鎖,近親者のラーゲリ(強制収容所)送りという想像を絶する苛酷な状況のなかでの,また愚かな結婚と悲劇的な恋,その後のカナダでの信じがたい出来事を経験したあとの,主人公マリーナの精神的な「蘇り」(成熟)の物語である。
◆本書で興味深いのは,これまでだれも書かなかったスターリン独裁時代のソヴィエトの生活について,登場人物やエピソードを通して精緻に描いている点である。
◆あなたのこの本は,ロシアにとってとても必要です。
今のロシアの若者は素晴らしいのですが,彼らは若さゆえに,国じゅうに広まりだしたファシズムや民族主義,ユダヤ人排斥主義の脅威から目をそむけています。
あなたの本は,この国で過去に起きたこと(自由を奪われた社会主義政権の悲劇)を若者が知るうえで大きな助けとなります。
◆この本はあざやかな描写で心をつかむ。しかも,微妙なユーモアと素晴らしい観察力で,ソヴィエト社会で苦しんでいる人々を温かく思いやりをもって描き,彼らを苦しめるものを怒りと辛辣な皮肉をこめて描いている。
主人公は愛や苦しみを読者にさらけだしているが,それは作家ファイナ・ブラゴダーロワが「誠実」と「勇気」という大きな賜物をもつからだ。
目次
運命
「主人公マリーナは,1941年キエフの祖母の家での楽しいパーティのさなか,ドイツ軍侵攻のニュースを聞かされる。レニングラードはドイツ軍に封鎖され,飢餓と死が街を覆い,人喰いが横行する。凍結したラドガ湖をトラックで渡る決死の脱出行,8日間の過酷な汽車の旅を経て,ペンザの疎開キャンプに到着。そこで生まれたポーランド人の少年との初恋,そして別離。やがて余儀なくされる不本意な結婚。苦悩するマリーナは,若く優秀な精神科医ヴォロトケーヴィチに出会い,恋に落ちる。つかのまの春。マリーナの「黒い瞳」に魅せられるヴォロトケーヴィチ。しかし,職場に吹き荒れ,市民を恐怖に陥れたスターリン独裁政権のテロルの魔手は,叔父リョーヴァ,父親アレクサンドル,そしてついに恋人にも及ぶ。祖国に絶望したマリーナは,カナダへの出国を決意。新天地での新しい生活に乗り出す。そこで,待ち受ける,成功と裏切り,そして運命的な結末……。」
真実?
物語はまさに波乱万丈に展開し,その背景に,ナチスによるバービー・ヤールの虐殺事件(多数のユダヤ人・ソ連人捕虜をこの地で虐殺),ソ連共産党政権の腐敗,KGBの尋問と脅迫,公にされない原子炉爆発事故の恐怖,『静かなドン』盗作問題についてのソルジェニーツィンとの交渉など,今でもまだ解明し尽くされていない多くの歴史的事件が描かれる。