夢を育み、それに向かって具体的に行動しよう!
熊本県立大学 飯村伊智郎先生にお話を伺って
Apple 上級副社長が訪れた研究室
飯村伊智郎先生は、熊本県立大学の総合管理学部教授/デジタルイノベーション推進センター長で、知能情報学を専門にしています。進化的アルゴリズム、群知能、学習環境デザインなどの研究に取り組むとともに、大学では、プログラミング概論、データベース論、人工知能論などの科目を担当し、高度な知識とスキルを提供して次世代のソフトウェアエンジニアを育てています。テーマは「人とコンピュータが豊かに共存し、安全で安心できる快適な社会の実現を目指す」ことであり、プログラミングや情報技術の分野で学生たちの実践的スキルを養成しています。また、コンピュータサイエンス教育の普及にも熱心に取り組んでおり、それらの教育研究は世界に広く認められています。2022年12月には、Apple のワールドワイドマーケティング担当上級副社長であるグレッグ・ジョズウィアック氏が飯村研究室を訪れ、若い開発者たちがテクノロジーを活用し地域コミュニティに貢献している姿を見て賞賛したそうです。
デジタルテクノロジーを道具として使う
飯村研究室では、地域社会に貢献するために、アプリ開発や映像制作、プログラミング教育などの実践的研究を行っていますが、総合管理学部は文理融合のためコンピュータに触れてこなかった文系の学生が多いそうです。「現代の社会課題を解決するためには、テクノロジーの活用が不可欠。文系理系に関係なくテクノロジーを道具として使い、社会課題とつなげて自分の力で社会実装していく」ことを目標に、研究室の所属が決まる大学2年生の6月からプログラミングを学習して4か月ほどで全員がアプリ開発できるようになるというのですから、スキル習得の早さに驚きです。その秘訣は上級生のメンターシップ。自分が習得してきた過去を振り返りながら下級生の学習をサポートするので、つまずきに寄り添った適切なアドバイスができるのでしょう。
スキルを習得したあと、学生たちはいくつかのチームに分かれて社会実装に向けて活動を開始します。研究の内容や進め方などは基本的に学生主体で行い、飯村先生は企業や官庁と学生との橋渡しをしたあとは見守り役に回るのだそうです。学生を信じきって「好奇心を大切に」スタートし、「着実に成長」するためのロードマップをもとに、社会実装をゴールにした「抜群の成果」につなげる学習環境デザインには、飯村先生のこだわりが感じられます。
学生が取り組むデジタルテクノロジーの社会実装
こうした環境で学生たちはさまざまなアプリ開発に取り組み、これまでに多くの成果を出してきました。例えば、重度の障害をもった児童生徒との意思疎通を円滑にするために学生が開発したアプリ「HeartRecorder」は、2021年11月に「第42回U-22プログラミング・コンテスト テクノロジー部門」で経済産業省商務情報政策局長賞を受賞しました。また、同年10月にリリースした「ふろジック」は、小学校の音楽の授業で楽譜を読む力を鍛えるために学生が熊本市教育センターの音楽科指導主事と共同開発したアプリで、ゲーム感覚でトレーニングができます。ほかにも、園内をより楽しく散策できる熊本市動植物園マップアプリ「AZooR」や、熊本市の小学生向けに開発された浸水時の擬似体験を行うことができる防災ARアプリ「ARERT」など、学生たちの手によってテクノロジーを活用した新しい価値が次々と社会実装されています。
飯村先生は、文系と理系の学生が一緒になってアプリ開発や研究に取り組むことの重要性を強調しています。「文理融合で研究開発チームを構成する素晴らしさは、バランスのよいソリューションの提供ができる点にある」と述べ、分野を問わず学生たちにテクノロジーを活用した問題解決のスキルを教えることで、次世代の技術者や研究者を育てています。「夢を育み、それに向かって具体的に行動しよう!」という呼びかけからは、学生に向けた飯村先生の熱意と誠意が伝わってきます。
(2024年2月の取材をもとに文章をまとめています)