教育研究所
№1001「高等学校新学習指導要領に向けた取組と課題」
人工知能やビックデータの活用などの技術革新が急速に進展する現代,高等学校等への進学率は既に99%に達している。生徒たちの興味・関心や能力・適性,進路希望なども多様化が進んでいる。そのような社会の中で,豊かな人生を生き抜く力を身につけ,活躍するためにも,これからの高校教育の果たす役割はますます重要になってくる。
昨年3月に高等学校新学習指導要領が告示された。2022年度に入学する生徒から学年進行で実施される。それを円滑に移行していくために,今年度から各高等学校で移行措置の取組が進められている
現在,高等学校は,「生徒に身に付けさせるべき資質・能力」,「学習評価・授業評価の具体化や共通理解」,「大学受験との両立」,「高校生の学力保証」等々,様々な課題を抱えている。その中でも特に「主体的・対話的で深い学び」,「英語の4技能の育成と評価」,「高校生のための学びの基礎診断」は重要な要素である。
各学校における「主体的・対話的で深い学び」に関する取組として,教員の指導力向上のための校内研修を始め,授業見学,先進校視察,グループによる自主研修,実践報告等で研修の充実を図るとともに,特に大学受験,大学との接続を考え,「深い学びを育む」ための少人数授業やICT機器を活用した授業展開に工夫をこらしている。また,「評価」に関して,評価基準の設定,観点別評価,試験内容の工夫等,校内体制の整備を進めている学校も多い。
多くの学校では,生徒の学習意欲・受験意欲の喚起に向けて,4技能の総合的指導法の研究,入試対応,評価基準,評価法についての研修に努めている。「英語4技能」の民間検定試験の利活用については,民間業者への依存度拡大への懸念,検定対策をはじめ検定料(補助,保護者の負担),実施時期,回数など,期待よりも不安の方が大きいと聞く。
昨年3月,学習指導要領の改訂とともに,高校生に求められる基礎学力の習得や学習意欲の喚起を図るために,文部科学省が一定の要件を示し,民間の問題等を設定する制度を創設した。それが「高校生のための学びの基礎診断」である。「大学入学共通テスト」は,報道等で取り上げられ,関心も高く対策が検討されているが,来年度からの実施にも拘わらず,「高校生のための学びの基礎診断」については,具体的にどのように実施され,どのように活用すればよいかについての情報が不足しているのが現状である。
全国普通科高等学校協会教育課程委員会の調査によると,多くの学校では,「高校生に求められる基礎学力の定着度合いや習得」について把握し,分析・活用するために,民間業者の測定ツールや都道府県独自の測定ツールを活用しているとのことである。
東京都では,「都立高校学力スタンダード」に基づき,校内での組織的・計画的な指導と評価を実施し,生徒の学力を確実に定着させるための手立てを研究している。また,昨年度から校内寺子屋を設置して,義務教育段階の基礎学力の定着が十分でない生徒に対し,放課後や長期休業日中に外部人材を活用した個に応じた学習を支援している。このように独自の測定ツールを活用している都道府県もある。このような取組を通し,「高校生のための学びの基礎診断」が高校生の「基礎学力の習得,学習意欲の喚起」につながる仕組みとして定着することを期待したい。
新学習指導要領実施に向け,生徒の学力・学習状況等の課題を解決し,社会で自立的に活動するためには,「教員の意識改革や指導力の向上」,「生徒に身に付けさせるべき資質・能力」や「学習評価・授業評価に対する共通理解」に対する校内組織や研修体制の整備確立と「ICT機器の導入・利活用」が必要不可欠である。「学力の3要素」をバランスよく育む高等学校教育が如何に重要であるか,今,認識を新たにしている。
「高大接続改革の推進」「入試改革」の全容が未だ具体化しない中,各学校が様々な実践を積み重ねているのが現状である。文部科学省,教育委員会からの一層の支援を求めたい。(H・H)
(2019年6月17日)