教育研究所
№1043「バーチャルとリアル」
今年の4月5月は,先生方からのご相談等が多く,それにともなう情報収集や意見交換などもかなり行ってきた。私がお話をした先生方の勤務校は小学校から大学まで幅広く,教職歴も今年の初任者から今年度でご退職の校長先生までさまざまであったが,その話題のほとんどは「学校の臨時休業」に関するものであった。いずれも重要かつ本質的な課題を含むものばかりであり,子供たちがいない教室に吹いている風は,決して爽やかな薫風ではないと実感した。
4月のご相談の多くは,遠隔授業に関するもので,高等学校や大学の先生方が多かった。BYOD(Bring Your Own Device)による生徒や学生のスマートフォン等の活用で「オンライン授業」が一応は可能になったものの,生徒側の不慣れもあって一方的な講義型の授業になりがちで,「主体的・対話的な学び」には程遠いといったものであった。また,小中学校の先生からは,そもそもICT環境が整わない中で,新しいクラスの子供たちとのコミュニケーションや学習支援をどうするかといったご相談があった。これは,5月に入ると「分割登校」における指導法の話題になっていった。課題提起としては,やはり高等学校等と同様の「学びの質」に関する内容であり,さらには「これだけ苦労して教材を作っても意味があるのか。」といった懸念もあった。
こうした一連のやり取りの中で気付いたことに,先生方が実は対応策を既におもちだったということがある。例えば,子供たちとのコミュニケーションでは,入学式後に渡すつもりだった「お手紙」や,短い指導時間を補う「学級通信」など。「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けては,目標と学習課題を明示して見通しをもたせるワークシートや,話合いに向けて複数の視点や思考を例示したヒントカードなど。あるいは,映像の活用では,10分程度の短時間の映示と記述式のワークシートの併用などである。
こうした教材や指導の工夫は,蓄積すれば校内外で共有が可能であり,実際に文部科学省の「子供の学び応援サイト」では,ワークシート等の教材や指導の工夫例,教科書に基づく授業の動画などが提供されている。
AI等を含めてICTは教育の有効なツールである。しかし,「ICT≒SNS・オンラインゲーム」というイメージもあり,私自身を含め,多くの大人がICTは「不要不急」と心の片隅で思っていたことはないか。確かに,仮想空間は衣食住など人間の生命や健康の維持に必要な物を生産しない。だが,現実の子供たちの生命や健康を守るために仮想空間を用いることを私たちは体験した。
「パンデミックは社会変革をもたらす」という指摘がある。感染の第2波等が懸念される中,「Society 5.0」の実現に向け,児童・生徒一人1台のPC整備や家庭学習用ルーターの貸与などのGIGAスクール構想が年度内実施を目指して進められている。(K.M)
(2020年5月26日)