教育研究所
№1045「月」
映画にもなったある小説に,外に出た登場人物の目に「昼の満月が浮かんでいた」と,心の解放を印象づける一文があった。現実にはあり得ない情景で,作者のレトリックだとしても,いくら何でもと少々興ざめだった。
本社発行の小学校国語教科書『ひろがる言葉』四年上巻に『「月」のつく言葉』が教材化されている。言語文化に誘う小教材である。
教材では,月の満ち欠けの順に,「新月」からはじまって「三日月」「上弦の月」「十三夜の月」「十五夜の月・満月。望月」「十六夜の月」が紹介され,「新月」へ一巡する。さらに,国語辞典で調べさせる言葉として,「名月・おぼろ月・夕月・有明の月・残月」が例示されている。
月の呼び名には,計時的な呼称,形状的な呼称,眺望的な呼称など多様にあるが,それらのそれぞれに名付けた人々の眺める立場やくらし,思いが張りついてこその言語文化である。出来ることなら,その背景まで想像を喚起したい。
例えば,「中秋の名月」を「芋名月」と呼び,翌月の「十三夜の月」を「栗名月」と呼んだ人々の秋の実りの喜びや,十六日目を「いざよいの」と読み,次の夜を「立ち待ち月」,さらに夜ごとに「居待ち月」「寝待ち月」と呼んで愛でつつ待った人々の思いを味わわせたいと思う。 「三日月」も「うい(初)月」,「若月」,「眉月」など多数あるといわれる。
令和二年の「中秋の名月」は十月二日,「十三夜の月」は十月二十九日である。教室にも芋や栗を供えて,子どもたちに空を見上げるような話をしてやりたいものである。(H.I)
(2020年9月15日)