教育研究所
№1048「毎日が師走」
先日伺った学校で,ある先生から「今年は毎日が師走のようだった。」との話が出た。別の先生も「この10年くらい,ずっとそんな感じ。」と応じられていた。
確かに今年は,新学習指導要領への対応に加え,「コロナ禍」による臨時休業,学校再開後の分割授業や補充の指導,保健管理,学校行事や部活動等の計画変更など,今までに経験のない事態への対応が続いた。また,そもそも「教員の多忙感」は従前から大きな課題であったが,それが近年では「教師の長時間勤務による疲弊」と表現されるまでにいたっている。
「師走」の語源には諸説あるようだが,多忙を極める先生方にとっては,「毎日,教師は走り回っている」というのが実感であり,極めて切実な問題である。
国の調査においても,小中学校教諭の勤務時間は下表のとおり11時間を超えており,休憩時間における指導や自宅での教材研究等を含めるとさらに長時間になると考えられる。
なお,同調査の分析では,長時間勤務の主な要因として,若手教師の増加,総授業時数の増加,中学校における部活動指導時間の増加が挙げられている。
(平日平均) |
出勤時刻 |
退勤時刻 |
学内勤務時間 |
備 考 |
小学校教諭 |
7時30分 |
19時01分 |
11時間15分 |
学内勤務時間に「持ち帰り時間」は含まれない。 |
中学校教諭 |
7時27分 |
19時19分 |
11時間32分 |
(「教員勤務実態調査(平成28年度)集計【確定値】」による)
こうした実態を踏まえ,中央教育審議会は,昨年1月に「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」において,以下の提言を行っている。その主な内容は,①勤務時間管理の徹底,②学校及び教師が担う業務の明確化・適正化,③学校の組織運営体制の在り方,④勤務時間制度の改革,⑤改革実現に向けた環境整備などである。また,同答申を踏まえて「学校における働き方改革推進本部」が設置され,教特法の改正が行われて一年単位の変形労働時間制等が導入されている。ただ,上記の提言は多岐にわたり,検討時期も「コロナ禍」への対応と重なっているため,実効性のある施策として区市町村立学校に行きわたるには一定の時間がかかると思われる。
そこで以下では,教師の多忙な状況等について,これまでにご質問をいただいたり先生方と意見交換したりした内容のうち,個人や学年・分掌等でも実践でき,国の「学校における働き方改革~取組事例集~」(令和2年2月)にも類似点のある内容をいくつか紹介したい。
話題の多くに共通するのは「若手教師の悩み」である。これには若手育成に時間を取られるベテラン教師の悩みも含まれる。若手の先生方からは「とにかく時間がない。教材研究にも時間がかかるし,そもそも他の仕事に時間を取られる。」といった悩みを聞くことが多い。若手教師は,ほとんど全ての業務について,経験も過去の資料等も不足した状態で取り組む。そのため,一から考えて資料を作るか誰かに聞くことになり,自他の時間を消費するという状況になる。
改善策の一つとして,資料のデジタル化と共有化がある。ワークシートや学習指導案,学級通信や保護者宛て文書などをベテラン教師が共有フォルダ等に保存することでテンプレートとしても活用できる。同様に,教科書出版社のWebページの「年間指導計画」等も学習指導に活用できる。
他の改善策として,業務の見直しがある。下図は,上記「学校における働き方改革~取組事例集~」p.2の群馬県富岡市立富岡小学校「3つの視点と4つの手法で働き方改革」の概念図(上)と,その個人業務への応用例を作成したもの(下)である。指導内容・方法の精選や学級経営等の手法の見直しに活用できる。
やめる |
減らす |
変える |
始める |
|
時間 |
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人 |
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環境 |
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やめる |
減らす |
変える |
始める |
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時間 |
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方法 |
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内容 |
次に,中学校等における「部活動の指導時間」である。部活動顧問の先生方の多くは,「生徒の意欲や期待に応えるためにはやむを得ない。」と考えがちである。
改善策としては,まず国や各教育員会等の「部活動ガイドライン」に立ち返ることがある。ガイドラインには,適切な休養日等の設定だけでなく,部活動の在り方や意義,合理的でかつ効率的・効果的な活動の推進のための取組等が述べられている。それらを生徒・保護者等に丁寧に説明して理解を求めることが重要である。
そして,どの場合においても重要なのは,教師自身の意識改革である。このことに関しては,上記の中央教育審議会答申の「はじめに」に以下の記述がある。
「"子供のためであればどんな長時間勤務も良しとする"という働き方は,教師という職の崇高な使命感から生まれるものであるが,その中で教師が疲弊していくのであれば,それは"子供のため"にはならないものである。」「これまでの働き方を見直し,教師が日々の生活の質や教職人生を豊かにすることで,自らの人間性や創造性を高め,子供たちに対して効果的な教育活動を行うことができるようになる。」
多忙な「師走」の日々だからこそ,一度立ち止まって本質を見極めることが大切である。(K.M)
(2020年12月8日)