教育研究所
No.372 「『二十一世紀に生きる君たちへ』を再読して」(2014年5月19日)
書店で,司馬遼太郎「生誕90年」という本の帯の文字が目に入ってきました。
「坂の上の雲」「竜馬がゆく」「街道をゆく」シリーズや「故郷忘じがたく候」など,私たちに大きな財産を残していってくれた偉大な作家であったと思っています。
まさに昭和の時代に生きた司馬遼太郎さんが,日本は,終戦後,科学や技術の進歩する中で,人々が物質の豊かさを求める一方,自然環境を破壊し,人の心が貧しくなってしまった昭和の時代を憂いていたことを思い出します。
その司馬遼太郎さんが,21世紀を見すえ,大人になる子どもたちに贈った「二十一世紀に生きる君たちへ」という短い文章があります。
小学校6年生の教科書に載っているので多くの子どもたちにも知られている作品です。
その中で,未来ある大人になる子どもたちに希求すること,それは科学・技術を過信し思い上がった考えをもたげたままで現代に生きる私たちに,自然という「不変のもの」を生き方の基準において自己を考えてほしいということでした。
自然の一部でもある私たちは,自然と共存して生きています。
そのことを理解し「いたわり」という感情を大切に行動したいと強調しています。
「いたわり」は,助け合いであり,他人の痛みを感じることや,やさしさと同義でもあり,そのことを踏まえ,例えばどのように行動するかというと「転んだ友達に対し,『さぞ痛かったろう』と感じる気持ちを自分の中につくりあげなさい。
そのような感情をその都度つくり,素直で賢い自己を確立してほしい。」と熱く語りかけています。
私たちが今あるグローバル化社会では,効率と即効性が優先され,生きる力や生き抜く力をどう身に付けるかが問われ,教育界でもその要請に応えるべく必至で努力を重ねています。
子どもたちは,その成果をいかに早く目に見える形で示し,また活用力や応用する力が他と比べてきちんと身についているかどうかを常に問われ続けているのです。
さらに,英語力や理数科の得意な人材育成の急務などとなにやら喧しい・・・。
このところ割り切れない違和感が私の中にありましたが,司馬遼太郎「生誕90年」という帯の文字に出会い,「二十一世紀に生きる君たちへ」を再読する機会となりました。
(H・H)