教育研究所
No.360 「新しい学問」(2013年11月07日)
動植物の仲間の分け方については,「アサガオとヒルガオ」「カブトムシとクワガタ」は,よく似ていることから同じグループに入りますが,これには誰も違和感がないことと思います。
しかし,サツマイモが,アサガオの仲間だと言われると意外な感じがします。
動植物の仲間分けは,いつ頃,誰が始めたことなのでしょうか。
おそらく,数百万年前から人類の進化と共に,食料として食べ始めた頃からだと考えられます。
近代的な学問として成立し始めたのは17世紀頃からですが,現在の植物の分け方(分類体系)は,カール・フォン・リンネ(スウェーデン)の著書『自然体系』(1735年)から始まったと言われています。
リンネは植物を雄しべや雌しべの数などによって種,属,目,鋼に分け,分類の基本的な体系を確立しました。
また,植物の名前を属と種の2つのラテン語で簡潔に表す二名法を使用し,それまでの長い名前を整理し表現しやすくしました。
動物についても二名法を転用して,分類体系を確立しました。
その後,イギリスのチャールズ・ダーウィンの『種の起源』(1859年)やドイツのアドルフ・エングラーの『植物の科要目』(1892年)等多くの研究者によって,分類体系は研究され充実してきました。
日本では明治時代になってから江戸時代の本草学から脱却し,欧州の植物分類体系を学び研究し現在に至っています。
研究方法は,日本の国土全体を歩き植物を採取し,生または標本にして花や果実,葉,茎,根等の形質を詳しく観察して,分類体系にまとめていきます。
生育している状況や地域や場所,気温,地質なども研究対象にしています。
例えば,新しく外国から入って来たタンポポは,形や色,生態等を国内の種と比較・検討して,タンポポ属に入れ「セイヨウタンポポ」と和名をつけ,学名は「Taraxacum officinale」と名付けて分類体系にまとめます。
証拠の標本は,博物館や大学等の標本庫に保存します。現在,日本の植物の草は約130グループ(科),木は約110グループ(科)に分けられ体系化されています。
小・中学校の理科教育においては,この学問体系を基にしながら動植物の基本的な内容を,子どもたちが野生の動植物を観察したり,飼育・栽培したりして学習しています。
ところが,この10数年の間に,画期的な分類体系が研究され確立されつつあります。
伝統的な動植物の形や生態から研究するのではなく,細胞の中の遺伝子レベルを分析・統合し,種を特定し仲間を特定し,進化の道筋を明らかにし,分類体系を確立する方法です。
動植物の形や生態にとらわれずに,個々の動植物が親から受け継いでいる遺伝子を分析し,種特有の遺伝子の内容を明らかにすることによって,共通する遺伝子をもった仲間を特定し,仲間同士のつながりを明らかにしていきます。
この分類体系によると,例えば,現在41属からなるユリの仲間(科)は13属に減少し,多くの属は他のグループや新しいグループに移動することになり大変革です。
この分子生物学の成果が定着すると,動植物図鑑が書き換えられ,博物館や大学の動植物の標本庫の分類方法が,がらりと変えられます。
そして教科書の記述が変わり,授業内容が大幅に変わることが予想されます。
しかし,この大変革は10年で達成できるのでしょうか,それとも30年以上かかるのでしょうか。
影響を受けるはずの「小・中学校の理科教育」は,どのように変わっていくのでしょうか,今後,大いに関心をもって見守り参加していきたいと思います。(Y・H)