教育研究所
No.343 カワヅサクラの誕生(2013年02月07日)
2月の最も寒い時期になり,北海道では最低気温がマイナス31℃になりました。
一方,沖縄では連日20数℃の暖かさが続き,もうサクラが咲き始めたという報道がありました。
沖縄で咲き始めたサクラは,真紅のサクラで「カンヒザクラ」といいますが,原産地は中国や台湾,沖縄といわれています。
私たちが馴染んでいる「ソメイヨシノ」とは異なり,花は下向きに半開きに咲き真っ赤な色をしていますから,これはサクラかなと思ってしまいます。
「カンヒザクラ」は上野公園はじめ日本のあちこちの公園や庭園,公共施設に植えられていますが,沖縄のように1月に開花することは少なく,3月に開花することが多いようです。
東京では例年3月末~4月上旬に咲きます。
関東地方で早く咲くサクラは,伊豆半島河津町の「カワヅザクラ」が有名です。
例年2月には咲きますから,間もなく開花の便りがあると思います。
花の少ない寒い時期ですから,開花の便りが届くや否や伊豆急行河津駅には大勢の人が押し寄せます。
河津駅で電車から押し出されますと,そのまま大きな塊となって改札口を通過し,道を聞くまでもなく河津川の岸辺まで連れて行かれます。
両岸に濃いピンク色のサクラが開花しており見事なものです。
寒い冬空に満開のサクラですから,信じ難い光景といえますがこれが現実です。
実は,この「カワヅザクラ」は,先の「カンヒザクラ」を親とする雑種なのです。
二親のもう一方の親は,地元伊豆半島及び伊豆諸島の山地原産の「オオシマザクラ」であると言われています。
「オオシマザクラ」は,真っ白な大輪のサクラで,日本ではこの狭い地域だけに生育するサクラです。
やはり,公園や庭園,公共施設によく植えられています。
「カワヅザクラ」の自然交配はどのようにして行われて誕生し,いつごろ発見されどのように広められたのでしょうか。
一方の親である「オオシマザクラ」は,伊豆半島の山地に昔から自生していましたが,沖縄の「カンヒザクラ」は,明治以降,人の手によって運ばれ,伊豆半島の観光地を中心に公園や道路に植えられたものと思われます。
両者は小鳥や昆虫による花粉のやり取りにより受精し,新雑種として誕生したものと考えられています。
発見のいきさつは,昭和30年頃(1955年頃),河津町在住の方が河津川の土手で変わったサクラの幼木を発見し,自宅に移植したことから始まります。
その後,そのサクラは見事に育ち開花するようになりましたが,1本の木のみですから広まることはありませんでした。
ところが,河津町が町おこしの一環としてサクラの植栽を考え,下田林業試験場に依頼したところ,試験場は約10種類の候補樹から「カワヅザクラ」を選び,挿し木等により増やし,河津川の土手に植え今日の繁栄を招きました。
「カワヅザクラ」は,真っ赤な「カンヒザクラ」と真っ白な「オオシマザクラ」の子ですからやや濃いピンク色をしていますが,この雑種は社会的な条件と自然の条件がうまく合致して誕生し,広まったサクラであると言えます。(Y・H)