教育研究所
No.330励ますということ(2012年06月20日)
教師が子どもたちを「励ます」ということは,もっと元気を出してことに当たるように願って声をかけることであろう。
しかし,「元気を出して,がんばって」と声をかけられるだけでは,人はがんばれるものではない。
ある女子生徒との間に,こんなことがあった。
女子生徒は,友達も多く体育が得意で,バレーボールの部活動にも精一杯取り組んでいた。
元気がありすぎて,ついつい授業中に私語をしてしまうこともあったが,明るい性格の生徒であった。
ある時,女子生徒が「最近,なにか落ち着きがなく,しかも,これまでと比べ遅刻が増え,生活態度も乱暴になった」と感じた。
とても心配になり,放課後,本人と話し合う機会を作った。
「何かあったの」という私の問いに,
「実は,母が入院していて,小さい弟の面倒を見ながら家事のほとんどをやっている。・・・」
と,苦しい胸のうちを堰を切ったように話し出した。
彼女が,自宅でも懸命にがんばっていることが分かった。
「大変なのね。よくがんばってるわね」
と応じると,彼女は,大粒の涙を出しながら,泣き出した。
「何かあるな」と教師が感じても,子どもたちはなかなか自分から話さない。
大変なことがあっても自分から助けを求めようとしないことが多い。
彼女も自分から私に,相談には来られなかったのだろう。
私が,声をかけたことがきっかけで,ようやく話す機会を得たのだろう。
翌日からの彼女は一変した。
遅刻はなくなり,学習にも真剣に取り組み始めた。
その学期の成績も急上昇したのである。
自分の置かれている立場の大変さを分かってもらい,認めてもらい,肩の力が抜けたのだろう。
また,もと通り素直にがんばる気持ちになったのだと思う。
私は,生活指導のポイントとして,「寄り添い,認め,励ます」ということを大切にしてきた。
「寄り添い,認める」ことが,基本になければ,「励ます」ことはできない。
「寄り添う」ことができなければ,一人一人の生徒が姿が見えない。
どこでつまずき,何を悩み,意欲がわかないのか,持っている力を発揮できなくなっているのか。一人一人の生徒に寄り添うことで初めて,見えてくる。
「寄り添って,それを認めた」とき,「励まし」の言葉が心に響いてくる。
励ましの言葉にも「がんばって」「負けないで」「大丈夫」などいろいろある。
寄り添って,「大丈夫」と支え,認めて,「負けないで」と共感し,そして,「がんばって」と励ますことができるような気がする。(K・T)