教育研究所
No.326 子どもの見る目は鋭い(2012年04月25日)
作家のあさのあつこさんが,NHKラジオの「人間を考える~時代を見つめる~」の中で,豊かな人生経験のエピソード等について語っていた。
大学卒業後,岡山市の小学校で臨時教諭を務めた頃の話である。
若い教師として,クラスの子どもたちと努めて遊んだりしていたので,子どもたちから自分は人気があると思っていた。
ところが,終業式の日にクラスのある女の子から,唐突に「先生は嫌いだ」と言われた。
あさのさんは,将来作家になりたいとの考えが頭の中にあり,「真剣に子どもたちと向かっていなかったことが子どもたちに見透かされていた」からだと反省したそうだ。
「子どもの見る目は大人以上に鋭い」と感じたと話されていたのが印象深い。
そのような思いを胸に,その翌年,教師の退路を断って作家としての活動を歩み始めたとのことでした。
最近,小学校の教師をしている教え子が,授業づくりに自信をなくしていた。
いい授業だと思っていた授業が,子どもたちにとって必ずしもいい授業ではないと知ったときのショックが大きく,自分は,教師としての適性があるのか悩んで,憔悴しきった声で,私に何度か電話で相談をしてきた。
私は,「時には,子どもたちの意見を聞いてまとめ,自分と違う点があれば,しばらく自分を棄てて,静かにじっと考えることも必要だよ」と励まし続けていた。
この4月に,久しぶりに彼の元気な声が電話から聞こえてきた。
「『教師の適性は,努力していくことによっても身に付いてくる』と考えたら,気持ちが楽になりました。
これからも,気負うことなく研鑽を重ねて,子どもたちのよさや可能性を引き出せる教育活動を実践して,子どもたちの思いや願いに応えられる教師になりたい」
とのことでした。
子どものよさや持ち味を引き出し,夢や希望を育むことができる教師こそ,彼が望む教師像であると思う。
このような体験を通して成長した姿をみて,彼こそ素晴らしい教師になると確信している。 (H・H)