教育研究所
No.301 雑木林の四季(2010年12月22日)
秋の長雨が続いたある日,子どもたちに「秋霖」という熟語を読ませたことがある。
構成の一部から読みを類推するという意図があった。
もちろん小学校で教える漢字ではない。子どもたちは,「林」の音素から「しゅうりん」を正しく読み当てた。
「秋の今頃降る長雨,激しくもなく,静かに降り続く感じがするね」と文字の感覚に触れての,簡単な導入話題だった。
クラスに,母親が外国人の子どもがいた。
日本語が上達し,だから新しい言葉に関心の高い母親だった。
翌日,しっかりした漢字仮名交じりの手紙を子どもに託してお届けいただいた。
「子どもを通して,新しい言葉と漢字を日本の心や文化といっしょに勉強できます。
飛んで帰ってきて『秋霖』の漢字と意味を教えてくれました。
ありがとうございます。」と。
母親の興味への強い関心と応援がその子の意欲や行動を生み出していたのだと思う。
バイリンガルの家庭環境もあってか,言語感覚の鋭い子どもだった。
学力調査の質問紙による回答に基づくと,高校生の72.7%が古文が嫌いだと答え,解釈中心の正答主義の指導の結果であろうと分析されている。
来年度から始まる新学習指導要領に向けて,先行研究の取り組みを始めている小学校も少なくないが,伝統的言語文化の指導の試みに,やさしい古典とは言え,解釈主義の色濃い指導を散見する。
言語文化は,生活の息づいた香りとして,エピソードや背景,言語感覚とともに育てたい。
難しい漢字も,人気の相撲取りの名前に使われていると子どもは読み書きできる。
伝統的言語文化の切り口は,様々なところにあると改めて考えている。
退職して多少の余裕がとれるようになって,雑木の小鉢を実生から育てている。
まだ,それぞれ別の,1~2年ものの苗鉢の中に,寄せ植えしたい4つの木がある。
「ツバキ,エノキ,ヒサギ,ヒイラギ」の盆栽寄せ植えである。
それぞれ,漢字では,木偏に「春」(椿),「夏」(榎),「秋」(楸),「冬」(柊)と書く。
イメージ名は「雑木林の四季」。
「ヒサギ(楸)」は万葉集に登場する古名で,今のアカメガシワだと言われている。
現場を離れてしまったが,子どもたちに寄せ植えのイメージ名から始める漢字指導はどのようなものになるか,想像して楽しんでいる。
もっとも,盆栽らしい樹形になり雑木林ふうに見えるようになるのは,20年後ぐらいだろうけれど。(H・I)