教育研究所
No.287教師冥利-その7-(2010年05月21日)
Y男とN男はライバルであったのだろう。
中学校3年間を通して共に学年のリーダーとして活躍した二人が,2年B組で同じクラスになり,T教諭が担任をすることになった。
二人は常に互いを意識し,張り合った。
授業においては,どの教科においても共に積極的に取り組み,教科担任からも,「授業態度もよく,いつも集中して課題に取り組んでいる」,「意欲的な発言が多い」,「お互いに競い合っている様子が随所に見受けられる」などの学習所見が寄せられていた。
学校行事では,例えば,校内合唱コンクールにおいて,Y男が指揮者に立候補するとN男は伴奏者に立候補するといったように,常に意識し合って行動する場面がよく見られた。
部活動に対しても二人は意欲的に取り組んだ。
共に陸上部に所属し,N男は短距離をY男は長距離を得意としていた。
顧問教師からは,「二人はいつも競い合い熱心に活動し,下級生にもよい影響を与えている」という評が返ってくる。
地区大会などでの二人の活躍も朝礼等で紹介され,その存在は全校生徒にも知られていた。
このように二人は学習面だけでなく多くの場面で意識し合い,競い合った。
また,そんな二人の存在は学年や学校の話題になることも多かった。
T教諭は,個人面談の折に二人に聞いてみた。
「お互いのテストなどの成績が気になるか」
という質問に対しては,
「すごく気になるし,自分の方が悪いと悔しい」
という素直な答えが返ってきた。
T教諭は,学校生活の中で競い合うことを通してお互いに成長してほしいと願った。
そのために多くの場面で,「ライバルとは相手の成長を喜び,共有できる関係である」ことを語り,二人にそこまでの成長を期待した。
最終学年では別々のクラスになり,T教諭との直接のかかわりもなくなった。
それぞれが「悔しいだけでなく,自分の成長はお互いの存在があるからだ」と思えるようになったかは,定かではない。
しかし,T教諭は,二人とのかかわりを通して,何か多くを学んだような気がしてならないと,今でも思っている。(K・T)