教育研究所
No.280 子どもとの向き合いは足元から(2010年02月04日)
自分に自信が持てず,将来や人間関係に不安を抱いている子どもたちが多いと言われています。
教師は,体験活動や放課後の個別指導などを通して,これまで以上に子どもたち一人一人と向き合い,教育活動を行うための時間を確保することが求められています。
10年ほど前の新聞に,東京の定時制高校の担任の先生が,放課後に清掃の点検をしていた折り,教室のゴミ箱の中に丸めて捨てられていたノートの一片が目に付き,つい手に取ったことについて報道されていました。
それは,
無造作に丸められ捨てられていたノートには,生徒が作った次のような詩が書かれていました。
「花」
花よ,いつも上ばかり見ていないで,
たまには下も見ろよ。
下から生えてきたんだから。
今日の社会で,経済界だけでなく教育界においても,上を目指したり,効率を上げ競争に勝ったりすることが,個人の目的のようにとらえられている側面があります。
しかし,この生徒の詩は,「社会の在り方,教育の在り方や人間としての在り方に対して,上を見るだけではなく,様々な方向から見聞し,考えたり判断しろよ。
そして,自分の在り方・生き方を考えるときに,常に目標を持つことは大切ではあるけれど,自分が育ってきた社会,家庭や学校の先生や友だちへの思いやりや感謝の気持ちを大事にしろよ。
自分の足下を見ると,上ばかり見ていたとき気づかなかったことが,たくさん見えてくるよ」と言っているのだと思います。
担任の先生が,この詩をクラスで紹介したところ,その生徒は,はにかみながらもうれしそうに下を向いていたとのことです。
先生の思いがけない対応に,この生徒は,これから生きていくことに対する大きな自信とこれまで支えてくれた両親をはじめとする家族や友人への感謝の気持ちを思ったことでしょう。
この新聞記事を想いだす度に,この担任の,生徒との向かい合い方の素晴らしさや思いやりの深さに敬意を表したいと思っています。
そして今,私は改めて,子どもたち一人一人と「向き合う時間」の大切さを感じているところです。(H.H)