教育研究所
No.278 鉛筆の持ち方(2010年01月06日)
高校,大学と受験勉強に明け暮れていた頃,苦手な英語の克服は,なんとしても単語力と言われて,暗記に躍起になっていた。
新聞に挟まれてくるチラシの,片面しか印刷されていない裏紙が練習帳だったから,数十回,数百回と,鉛筆をもつ右手の小指側の縁がこすれてつやつやするほど,繰り返し綴ったものである。
思えば漢字もそうして練習していたから,縦書きに右から書くと,そこは,書いた字がこすれて真っ黒になっていた。
いずれにしても鉛筆を道具にして手で覚えるというのが,多くの受験生の流儀だった。
手の縁どころか,友人の多くが中指の第一関節と爪の間の内側に大きなタコを作っていた。
中には,タコが破れて血をにじませている友もいて,その努力に密かに舌を巻いたものだ。
しかし,紛れもなく鉛筆ダコは痛い。
正しい持ち方としてしつけられた,その構え,形がタコを作る。
今思えば,原因は持ち方よりも,筆圧や文字の運び方にあったのだろうと思うが,毛筆の構えからの硬筆の持ち方への「自然」な移行によって「正式」が決定した背景も見逃すことはできないだろう。
タコのできる部位は,毛筆では柔らかく支えるだけだが,硬筆では強く支える積極的な「支点」なのである。
タコを避けて,人指し指の先と中指の先の双方に鉛筆が当たるように持ち方を変え,等分に,2本の指先が鉛筆の柔らかい支点となるように構えを変えてから,タコは嘘のように消え,痛みもなくなった。
「痛くなる持ち方の,何が正しいんだか」
と教員になってからも戻すつもりはなかった。
もっとも,新しい鉛筆の持ち方で英語の苦手までは克服できなかったので,自分の流儀を人に勧めることはなかったが。
小学校低学年の学習を参観すると,鉛筆の持ち方がかなりひどい。助言を求められるときは,次のように話すようにしている。
「国語や書写の入門期にある写真で基本の持ち方に慣れさせましょう。
しかし,大事なのは,姿勢です。
まっすぐにノートに向かうとき,鉛筆の先が自然に目に見えていて,運筆が自分の目で追えること。
不自然に,体を斜めにしないと書いている字が見えないのでは,正しい字,美しい字はおろか,疲れやすい,
だから長続きしない,集中力がつかないことにつながります。
姿勢の保持の基本が鉛筆の持ち方です。
保護者面談では,形ではなく,その点を強調して,家庭にも協力してもらいましょう」
と。(H・I)