教育研究所
No.276教師冥利-その6-(2009年12月09日)
教師の道を選んだT教諭の最初の三年間は,学級担任として無我夢中,必死でがんばったという実感が強かった。
次の三年間は,学級担任だけでなく生徒会活動にも積極的に力を注いだ。教師として充実していた。
その頃のこと。T教諭には,今なお鮮明に残っているM子のことがある。
生徒会の後期役員選挙。
後期から生徒会役員は2年生へバトンタッチという局面。
各学級から立候補者を募る。
2年D組での話し合いの結果,M子が生徒会長に立候補した。
M子がこれまで学級の代表委員として生徒会活動に関心が高く,意欲的に活動をしていたことは理解していたが,T教諭にとっては,彼女の生徒会長への立候補は想定外であった。
そのM子が立候補に当たり,生徒会活動や学校生活の現状と改善すべき点,そのための具体策などを自分の言葉で述べた。
M子の言葉は,説得力があり分かりやすかった。
当選したら,こんなことをしてみたいと述べたことは,「あいさつ運動の実施」「運動会,展覧会への積極的な参加」「校内美化運動の展開」の三点であった。
いずれも確かな現状分析がなされていた。
T教諭は,彼女の真剣な訴えと思いを聞き,何とか学級全体で応援し,M子の思いを実現させてやりたいと思った。
十分な時間をとり,「M子の生徒会長への立候補をどう考えるか」ということについて学級で話し合わせた。
その結論は,「みんなで応援しよう」と学級が一致結束した。
選挙運動の期間中,学級の団結は一層高まっていった。
投票の結果,M子の生徒会長は実現した。
初代女子生徒会長の誕生である。
その後,三つの抱負を具体的に実行したM子の航跡は,高く評価されて母校では,今なお語り草となっている。
教師として熟成したはずのT教諭であるが,最近再会したM子が述懐した
「あの時は,夢中でしたが充実していた・・・」
の言葉に,当時を振り返り,
「生徒会長M子を,一丸となって応援する学級」
の充実した雰囲気を,今さらながら,初心に帰ったように噛みしめているという。(S・T)