教育研究所
No.275 教育格差を考える(2009年11月18日)
私立高校に勤める先生の話では,世界的な経済危機の影響を受けて,家庭の経済状況が悪化して,授業料を納めることができず,公立高校へ転学したり,中途退学をせざるを得なくなった生徒が増えていて,担任としての心の痛みも大きいとのことでした。
また,公立高校でも,アルバイトによって家計を助けている生徒や修学旅行へ参加できない生徒も増えているとのことで,高校生に与える影響も深刻です。
報道によると,日本の「貧困率」は,2006年は,15.7%でOECD加盟30カ国の中で,メキシコ,トルコ,アメリカに次いで,4番目に高い水準であるということです。
先日,国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩さんの公開講座「子どもの貧困と教育格差―日本の不公平を考える」を受ける機会がありました。
講演の中で,母子または父子家庭の経済状況が悪くなり,子どもたちが,教育を受ける環境が非常に悪くなってきているといいます。
「貧困の連鎖」という言葉が,使われるようになり,子ども期の貧困は,子ども期だけで収まらず,大人になってからの所得や就労状況にマイナスの影響を及ぼして,その「不利」は次世代に受け継がれることが,明らかであると話されていました。
かつて,わが国では,父親と母親は,
「貧しくても温かな家庭があれば,子どもは幸せである」
「家庭は貧しいけれども,子どもだけは,学校へ行かせたい。」
「親自身は大学へいけなかったので,子どもには,大学に行かせたい」
また,子ども自身も,
「親のためにも学校だけは休まずに行って,卒業したい」
「昼間働いて家計を助けながら,夜は定時制高校で勉強し,卒業したら,大学へ進学したい」
と意欲に駆られたものでした。
このような時代に育ってきた私は,今の親や子どもたちに対し,決して自信を失うことのないようにがんばってもらいたいと願っています。
政府は,来年4月から,高校の実質無償化や奨学金の大幅な拡充を提案しています。
高校生だけに限らず,幼児や小・中学校の児童・生徒も安心して教育を受けることができるような社会づくりが必要となります。
高齢化,少子化社会が進む中で,日本の未来を築き,背負っていく子どもたちが,厳しい現実を乗りこえて,明るく,伸び伸びと楽しい学校生活を過ごせるよう望むところです。(H・H)