教育研究所
No.271 教師冥利-その5-(2009年09月24日)
中学校の教師をしていると,いつまでも記憶に強く刻まれた忘れがたい学習活動の場面が多々ある。
修学旅行もその一つである。
ある年の修学旅行二日目のできごとだった。
クラスごとの京都市内の見学。
その日は朝からの曇り空,今にも雨が落ちてきそうであった。
それでも午前中はなんとか降らずに経過したが,ついに午後からは降り出し,次第に雨脚が強くなった。
それでもバスガイドの案内に生徒たちは傘を片手に見学地を回った。
M子は,生来,左足が不自由であったが,いつも笑顔を絶やさない頑張りやであった。
そんなM子には小学校の時から親友Y子(クラスのリーダーの一人)がいた。
修学旅行に際してY子に,「M子と共に行動すること」「不測の事態が発生したら申し出ること」を頼んでおいた。
バスを降り,雨中,最後の見学地に向かった。
数分歩いたところで,Y子から
「先生,M子の靴の底が取れそうで思うように歩けません」
という申し出があった。
T教諭は,その場に全体を止め,M子の様子を確認した。
この様子を見ていたバスガイドは,M子の靴のサイズを聞き,
「先生,この場でしばらく待っていてください」
と言って,足早にバスに引き返し,運動靴を片手に戻ってきた。
「これ,履いてみてください」とM子に渡した。
おかげで何とか急場をしのぐことができた。
T教諭は,ガイドの咄嗟の判断と行動に感心した。
その日は無事すべての見学を終えることができた。
T教諭とM子は「もしよかったらその靴でお帰りください」というバスガイドの言葉に甘えることにした。
翌日,京都駅構内で帰途の新幹線を待った。
そこへ昨日お世話になったバスガイドが,
「きのうの生徒さんは大丈夫でしょうか」
とT教諭を訪ねてきた。
待ち時間がだいぶあったので,あとはM子とバスガイドに任せることにした。
二人の間にどのような言葉が交わされたのか知るよしもないが,
「いろいろと勉強させていただきました」
という言葉を残しバスガイドは帰っていった。
この修学旅行での体験を通しM子は,どんなことを学んだのだろうか。
その後,数年してM子に会う機会があった。
「あの時のガイドさんと今でも文通が続いています」
と言ったM子の表情が爽やかだった。
今,ボランティア関係の仕事に生きがいを感じて頑張るM子である。(K・T)