教育研究所
No.2504本足のチョウ(2008年11月05日)
きょうは,藤沢に住んでいる小学校1年生の潤子さんのお話をします。
潤子さんは,花を育てたり,小鳥を飼ったり,虫を見たりするのがとても大好きな女の子です。
おうちの手伝いもよくするそうです。
潤子さんは,毎日の登下校を楽しみにしています。
家から学校までの間に,いろいろな事に出会うからです。
4月のある日の朝のことです。
ランドセルをカタカタさせながら通学路を歩いていました。
おそば屋さんのおばあちゃんが,店の前のそうじをしていました。
「わあ,きれいだ」
と潤子さんは,おばあちゃんの所にかけ寄りました。
歩道の隅に小さな花だんがあって,赤いチューリップが2本咲いていたからです。
「おばあちゃん,おはようございます」
「あれっ,潤子ちゃん。おはようさん。
今日も元気だね。
どうしたんだい,そんなに急いで」
「おばあちゃん,これ,チューリップでしょ。
大きくて,きれいだね」
おばあちゃんは,にこにこしながら,球根を植えたこと,時々水をやって世話したことを話してくださいました。
潤子さんは,学校に着くと,仲よしの友だちをさそって,花だんにいきました。
学校の花だんにも,赤いチューリップ,黄色のチューリップがたくさん咲いていました。
潤子さんは,友だちと一緒に,たくさんのチューリップにお水をあげました。
それから,チューリップの花を1つ1つのぞいて歩きました。
花のまん中に,カブト虫の角のような白いぼうがあって,そのまわりに粉のついた小さめのぼうが並んでいました。
運動場の方から大声が聞えてきました。
見ると,みんながドッジボールをしていました。
潤子さんは,授業が始まるまで,みんなとドッジボールをして遊びました。
6月のある日,学校からの帰り道のことでした。
本屋さんの屋根の所から,チーチー,ピーピーという鳴き声が聞えてきました。
潤子さんは,鳴き声のする方をじっと見ていました。
すると,すずめよりちょっと大きい,しっぽが長くおなかの黄色い小鳥が,サーと飛んで来ました。
長いしっぽを上下に,ピクピクと動かしています。
チーチー,ピーピーと,さっきより大きな鳴き声がします。
屋根の所に,小鳥の巣があって,ヒナがいるようです。
潤子さんは,じっと,じっと見ていました。
屋根の下からなので,よく見えませんでした。
本屋のおじさんに,
「あの鳥は,何という鳥ですか?」
と聞いてみました。
おじさんは,
「さあて,何鳥かな。
はじめて見る鳥だから分からないな」
と言いました。
家に帰ってから,お母さんにも聞いてみましたが分かりませんでした。
夕ごはんの時,お父さんに聞いてみました。
お父さんは,図鑑をもってきて,
「すずめぐらいの小鳥」,
「尾が長い小鳥」,
「腹が黄色い」
と言いながら調べてくれたのです。「これは,セキレイという小鳥だ。腹が黄色なのでキセキレイと言うんだ」と教えてくださいました。
次の日の朝,学校へ行くとき本屋のおじさんの所へ寄ったけど,店はまだ開いていませんでした。
帰りに寄ったら,おじさんは店の中にいました。
潤子さんは,
「おじさん,屋根にいる鳥は,キセキレイっていうんだよ。
川の近くにいる鳥なんだって」
と教えてあげました。
おじさんは,
「ありがとう。キセキレイだね。
大事にしてあげよう」
と喜んでくれました
7月になって,昆虫のことを勉強しました。
先生が
「トンボやチョウには,足が何本あるか知っている?」
とおっしゃいました。
お友だちは,
「6本です」
と言いました。
先生は,
「それでいいですか?」
ともう一度聞きました。
潤子さんは,
「ハイ,4本の昆虫もいます」
と言いました。
友だちがみんな,潤子さんの方を見ました。
先生もびっくりしたような顔をして,
「潤子さん,昆虫は足が6本なんだよ」
と優しく言いなおしてくれました。
でも,潤子さんには,前に公園で4本足のチョウを見たことがあるので,
「4本足のチョウを公園で見ました」
と言いましたが,先生も友だちも,
「昆虫は,足はやっぱり6本だ」
と言いはります。
潤子さんは,お父さんが小鳥のことを,図鑑で調べたことを思い出しました。
昆虫図鑑で調べることにしました。
チョウの種類は,いっぱいあるので調べるのが大変でした。
何日もかけて調べました。
やっと見つかりました。「タテハチョウ」,たしかに足が4本しかありません。
潤子さんの見た4本足のチョウは本当にいました。
次の日,潤子さんは図鑑を持って,いつもより早く学校へ行きました。
門のところで,先生を待っていました。
やがて,先生が大きな荷物を持って,急ぎ足で歩いていらっしゃいました。
潤子さんは,
「先生,4本足のチョウがいたよ」
と,図鑑を見せました。
先生は,
「エッ,4本足のチョウ。
どれどれ」
と言って,図鑑を手にとってごらんになりました。
「なるほど,4本足のチョウだ。
潤子さん,ありがとう。
これで,先生は1つ勉強になった」
と言いました。
そして,
「ごめんね」
と,あやまってくださいました。
1時間目が始まる前に,学級のみんなの前で,先生は,4本足のチョウのことについて話してくださいました。
友だちがみんなで,潤子さんに拍手をしました。
潤子さんは,とっても嬉しくなりました。
潤子さんは,今でも,自分で実際にやってみたり,自分で調べたりして,元気よく楽しくすごしているそうです。(H・K)
注)タテハチョウの前脚は退化して短く,歩行などには使っていないため,4本脚に見えます。