教育研究所
No.249 教師冥利-その3-(2008年10月15日)
全国高等学校野球選手権大会をテレビで観戦しながら,T先生は,かつてに思いを馳せる。
「都立高校,初の甲子園出場」に高校野球ファンが沸いた。
都立K高校が甲子園出場を成し遂げ,N男はキャプテンとして甲子園の土を踏んだのである。
T先生は若かりし頃,M中学校で先輩教師とともに野球部顧問を8年間続けた。
N男とはその時にかかわったのである。
そのN男が,その後T先生がM中学校を校長として退職する際,PTA広報誌に次の一文を寄せている。
「地区大会の決勝に臨んだM中野球部。
打席に向かった選手に,ベンチを立ち上がった顧問教諭がハッパをかけました。
『初球を狙え。思い切り振れば外野を越すぞ。』
選手は言われた通り初球を振りました。
夢中で走り,打球の行方が分かったのは二塁にさしかかってから。
校舎に当たる本塁打になったのでした。
顧問教諭はT先生,選手は小生。
もう24年前のことです。
気持ちの捉え方次第で実力以上の結果が出ることもある。
初めてそんな体験をさせていただいたのだと思います。
『初球を狙え』の教えは今でも忘れていません。」
いわゆる部活動に対しては,様々な意見があり,運営上の課題があることも事実である。
学習指導要領では意義を認め,「学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること」と規定している。
T先生は,「自分は,部活動に何を求めていたのか。」と問い,自らのしてきた部活動を振り返る。
「初球を狙え」という一言は,N男にとってどんな意味があったのか。
部活動を通して教師は生徒に何を学び取らせるのか。
生徒は部活動に何を期待しているのか。
保護者や地域社会は何を望んでいるのか。
自問自答が続く。
「初球を狙え」を実行したN男は,現在,某新聞社の地方支局に勤務すると伝え聞いている。
地区大会の決勝戦は2対1で敗れ準優勝に終わった。(K・T)