教育研究所
No.246 聞くこと(2008年09月03日)
「聞くこと」といっても非常に漠然としている。
ここでは会議やグループの話し合いで「人の話を聞くこと」を取り上げたい。
私は「聞くこと」がとても下手で,会議などに出る前には,「今日の会議では,謙虚な態度をとること,まずよく話を聞くこと」と自分に言い聞かせている。
よく聞いていると「相手の考え」「相手の考えの裏にある思い(感情)」「相手が何を求めているか」が分かる。
ところが気持ちが熱くなって,謙虚さや落ち着きをなくしてくると,もうだめである。
「私ならこう思う」「だからこうやればいいのに」と考え始めてしまう。
挙げ句の果てに,口を開いて話題を横取りしてしまう。
「またやってしまった」と時々自己嫌悪におちいる。
また,一つの話に集中できなくて,あちこちに興味が移っていくことがある。
一つの話から派生する事柄に思いをはせてしまうのである。
話の論理的な構成や展開などに注意して,あるがままに相手の話を聞くという基本的な態度を失ってしまうことがある。
そのために私は,自分の考えと比較したり,相違点を明らかにしたりして,自分の考えを深めるという大切なことを失っている時が,しばしばある。
今年の教育展望セミナー(財団法人教育調査研究所主催)でのこと。
司会を担当した分科会(中学校部会)で,学校で身に付けた学力と将来に生きる力との間に隔たりがあるという課題がだされた際,「社会人基礎力」(経済産業政策局長の私的研究会の報告)が話題になった。
「社会人基礎力」の一つの大きな能力として,多様な価値観をもった人々とともに,目標に向けて協力する力,すなわち「チームワーク」が示されている。
その要素として,「発信力・傾聴力・柔軟力・状況把握力・規律性・ストレスコントロール力」の6つが挙げられている。
これらの要素の内,アンケート結果の上位に,中学生が,獲得が難しいと感じるものとして,「発信力」「ストレスコントロール力」と並んで「傾聴力」があった。
私は,そうなんだと納得する思いで資料に見入っていた。
「聞くこと」「聞く力」「傾聴力」を支える基礎的な力,それを獲得するために必要な資質や態度はなんなのだろうかと,三つのことを考えた。
第一は,「話の内容に集中することができること」。
一つの内容から自分の思いであちこち勝手に興味を移しすぎないことである。
第二に,「謙虚で常に伸びようとする姿勢があること」。
「聞くこと」は,「話すこと,読むこと,書くこと」の基礎であることを自覚し,相手から学ぼうとする姿勢が大切である。
第三に,「話を最後までじっくり聞く習慣を身に付けること」。
自分の考えをまとめる以前に,相手の話を丸ごとそのまま聞くことである。
私は,いろいろな方法を駆使し,この習慣を身に付けることを大切にしようと考えている。(K.T)