教育研究所
No.241 観察教材を新しい視点で(2008年06月25日)
今年の3月に新しい学習指導要領が告示され,今後10年間に育てる子ども像が浮かび上がってきました。
ものごとを解決できる力や豊かな心と健康を育てるという,いわゆる「生きる力」を身につけることは現行学習指導要領と変わりがありませんが,特に強調されていることは,学力の内容とレベルを高めることです。
理科の学力とは,ものごとを解決する力や自然を愛する心情,自然についての知識・理解を指し,科学的な考え方でものごとを解決できる力であると言われています。
現在,いろいろな調査・研究から日本の子どもたちの理科の学力の問題点は,次のように指摘されています。
(1)知識・技能は高いレベルにあるが,実験・観察から得たデータから自然の規則性を解釈することに問題がある。
(2)実験・観察の結果を表やグラフ等に資料化することに問題がある。
(3)学習から獲得した知識・技能や解決する力及び科学的な考え方を実際に活かしたり,生活に応用したりする力に問題がある。
これらの課題に対し,解決策として考えられるのは,問題解決学習の実験・観察が終わった段階で,結果を簡単な表にしたりグラフ化したりして全員が理解しやすくし,考察の話し合いをして自然の決まりを見つける学習を丁寧にすることです。
また,学習で得た知識や能力を発展学習として,活用したり応用したりする学習を組み入れることです。
実験中心の問題解決学習では,上記のことは実現しやすく,観察中心の学習では自然現象を教室や理科室で再現することが難しいことから,実現することに困難が伴います。
以下に,困難な例を易しく実現する例を挙げましょう。
4学年の生物教材「季節と生き物」を新しい視点で分析し,組み立て直してみましょう。
この学習のねらいは,動植物の活動には規則性があり,その活動は気温(地温)の影響を受けるということを理解することです。
このねらいを達成するために,草や木を数種類,動物数を種類を春から秋まで継続観察して,その変化の様子を丁寧に記録する必要があります。
例えば,桜の木やヘチマ,二ガウリの4月初めからの様子を観察・記録します。
桜(ソメイヨシノ)はつぼみから開花し,開花が終わると花が散り幼い葉が出て,花の子房に小さな果実ができます。
果実は結実しないで落果してしまいますが,その頃,葉は大きくなり柄の基に小さな葉(托葉)をつけます。
夏には来年の花芽と葉芽をつけ冬越しの準備をします。
11月ごろには,葉が色づきはじめやがて落葉します。
冬には一切の葉はなくなるが,枝や幹は生き続けています。
桜の1年間の様子は,10枚くらいの観察カードに記録して残します。
カードには,桜の詳細な絵と文章,気温,服装等を記録します。
1年間の最後に,年間の気温の変化を大きな折れ線グラフにし,10枚の桜のカードの変化と比較し考察を加えます。
子どもたち全員で気温の変化と一年間の桜の変化の関係についてどんな関係があるか話し合い考察します。
気温が高くなると桜は開花し葉を展開し,果実をつけ,気温が下がると葉が色づき落葉することを子どもたちは見つけます。
しかも,その変化は気温が何度ぐらいで起きるか発見します。
そして,桜の変化が,他の木でも当てはまるかを考察し,ケヤキでもイチョウでも当てはまることも理解します。
観察中心の学習では,目的をもたせて丁寧に観察し,記録に残し,その変化の原因をグラフから見つけるということが大切です。
この学習を通して,日本の子どもたちが弱いというデータを資料化する力や資料から自然の規則性を読み取る力や得た知識・技能を活用する力を育てることができると考えます。(Y・H)