教育研究所
No.395 「富士山の魅力」(2015年1月13日)
私は今までに一度だけ,富士山の頂上に行きました。それほど健脚ではありませんので,山梨県の河口湖からバスで五合目まで行き,頂上まで10数時間かけて往復しました。途中の8合目あたりの山小屋で数時間睡眠と休憩をとりましたが,楽な登山ではありませんでした。
東京又は河口湖あたりから眺める秀麗富士と歩いてみた富士山とは,まったく違う山でした。5合目までは樹林帯が雄大に広がっていますが,標高約2700mの植物の生育限界を超えると火山岩や火山砂,火山灰が広がる荒涼たる山体でした。ところどころに溶岩の固まりが顔を出し,火山砂が崩れていました。頂上の大きな火口は,1707年の噴火の際にできたものだそうですが,玄武岩質の真っ黒な岩石と砂に被われていました。遠くから眺める美しい富士とは,ずいぶん異なる印象です。
しかし,さすがは富士山と感心することもありました。まず,高さが尋常ではありません。頂上に立つと自分より高いものがありません。周辺の山々や5つの湖,西に見える標高が日本第2位の南アルプスの北岳,その北に見える八ヶ岳,さらに北にある北アルプス等は全て下に見えます。はるか南には伊豆七島が点々と見えますが,全ての物が眼下に見えるのは,ここだけでしょう。
第2に,登っている人々の富士への熱い思い,その熱心さに感心いたしました。山小屋や山道,頂上で聞いた話では,ある人は毎年登っていて今回は26度目であること,さらにある人は毎週登っていて年に約20回,すでに200回を超えているとのこと,ただただ驚くばかりです。これはもう,単に富士山に対する愛情や愛着を超えて,信仰に近い思いなのかもしれないと尊敬の念を禁じえませんでした。
第3に,これは後から詳しく分かったことですが,広大な裾野に豊かな動植物が生育していることです。富士登山をきっかけにして5合目(標高約2500m)を等高線に沿って歩くお中道や,2合目~5合目間の植物を調べました。標高2500~2700m付近の植物の生育限界付近には,イタドリやオンダデ等が点々とあり,その下にはオオシラビソやダケカンバの森林があり,林内にはハクサンシャクナゲやコケモモ,ヒメシャジン等が生育しています。2合目~4合目には,ツガやヒノキ,モミ,ウラジロモミ等の針葉樹の林と,ブナやミズナラの落葉広葉樹の林が住み分けながら,茫漠と広がる豊かな森を形成しているのです。
最近の報道によると,この魅力的な富士山が木曽の御嶽山のように噴火の恐れがあると聞きました。調べてみると,富士山が何度も噴火を繰り返して誕生したのは10万年前のことで,その後活発な活動期は数万年前,2万年前,2万年前~7000年前,5600年前~3500年前,3500年前~2300年前,奈良・平安時代(1200年前頃),江戸時代(1707年)と8回もあったことが分かっています。
江戸時代の最後の噴火からは300年たっていますから,そろそろ噴火があってもおかしく無いと考えられています。この考え方にはある根拠があって,2001年頃に富士山の地下周辺に年間800回ぐらいの群発地震があり,普通年間の平均は100回ぐらいですから,それと比較するとダントツに多かったので噴火の恐れありと考えられたのです。
地震と噴火の関係は,地下(20~10km)のマグマが動いたり上ったりすると先ず地震が起きます。次に,地震によって火口の下(20~5km)が揺さぶられて,岩盤の間にわずかの隙間ができます。地下のマグマの動きや圧力が活発であれば,この隙間をマグマが上昇してきて噴火につながることになります。マグマ本体が火口から噴出する場合もありますが,木曽の御嶽山のように地下にたまっていた水がマグマに触れて,高温高圧の水蒸気になって爆発する場合もあります。箱根大涌谷の爆発もこの類です。
山梨県や静岡県,神奈川県等は,防災計画を急いでいるとのことですが「備えあれば患いなし」ですから,万全の備えをしておきたいものです。
小・中学校では,この魅力的で少々怖い富士山を理科の地層と火山や動植物,社会科等の学習,総合的な学習の時間に活用してはいかがでしょうか。 (Y・H)
2015年1月13日