教育研究所
No.399 「お母さん」(2015年2月2日)
気力,体力,能力,視力,聴力が順調な劣化を自覚するようになると,不思議に故郷とおふくろのことを思い出す。
海の景色がTVの画面に出てくると,一緒に泳ぎ,釣りをし,走り回った小中学校時代の友達を思い出す。「老人は過去を語り,若者は未来を語る」と言うが,その通りである。
戦後の貧しい時代に,六人もの子供にいつも「満腹感」を与えてくれた無口で働き者の父親と勝気の母親を思い出す。「悪いことをするんじゃないよ,お天道様が見ているよ。」と言うのが口癖だった。お蔭で,少々堅物になって嫌われてはいるが,人様から後ろ指をさされるようなことは一切しないでこの年を迎えられた。ありがたいことである。
電車で,乳母車に乗った1歳ちょっとくらいの女の子とその母親と偶然,隣席になった。女の子は,愛想がよくて,向い側の乗客に手を振ってニコニコ顔を振りまくが,疲れた乗客は誰一人気づかなかった。その子が私にも,小さな可愛い手を振って「バイバイ」をしてくれた。にっこり笑って受けてあげたのだが,少し不満そうであった。まあ暇だから,次の駅でおりてあげようと思い,再び「バイバイ」をしたので,「バイバイ」と下車してサービスをしてあげた。電車が出ていくとき,その子の方を見たら,お母さんが頭を下げ「バイバイ」と手を振ってくれた。このことを察してくれたのだろうか。いいお母さんである。
帰宅途中に,自転車の信号を渡る。前と後ろに子どもを乗せたお母さんが,いくら自動車の流れが途切れたからと言って,信号を無視して渡っていった。
「おい,おい,万一,事故を起こしたら子供がけがするよ!」
と,声をかけたら,
「うるさいわね!」
と捨て台詞を残して颯爽と走り抜けていった。どうか,事故にあいませんようにと,お母さんの背中に向けて祈った。
(H・K)2015年2月2日