教育研究所
No.436 「理科教育とアクティブ・ラーニング」(2015年7月10日)
文部科学省は,昨年の11月20日に次の学習指導要領の在り方について,中央教育審議会に諮問しました。その目玉の一つが「アクティブラーニング」という言葉ですが,その意味は「児童・生徒が課題解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習」と定義されています。
具体的な授業の形態は,発見学習,問題解決学習,体験学習,調査学習,グループデスカッション,ディベート等が挙げられています。
「アクティブラーニング」のねらいは高校・大学の教育改革にあり,文科省は大学入試改革,大学の教育方法の改革,高校の学習方法の改革及び新テスト等を推進し始めています。
小・中学校においては,既に長年にわたっておおむね「アクティブラーニング」は実施されてきたところですが,この際,次回の指導要領が目指す人間像を想定しながら指導方法全体を振り返って,吟味してみてみるのは意義あることではないでしょうか。
次回の指導要領が目指す人間像については,
(1)伝統や文化に立脚し,高い志や意欲を持つ自立した人間
(2)他者と協働しながら価値の創造に挑み,未来を切り開く人
(3)学力の三要素からなる「確かな学力」を備えている人
(4)自己肯定感や学習意欲,社会参画の意識を持つ人
上記の他に,OECDが提唱する「キーコンピテンシー」の育成,持続可能な開発のための教育(ESD)等の人間像も視野に入れておく必要があります。
理科の学習に関係するALのキーワードは,「汎用的能力,能動的学習,主体的・協働的な学び,問題解決学習,問題の発見,体験学習,話し合い活動」等ですが,次の4点に付いて授業内容を見直してみるのは,意義あることと思われます。
(1)問題の発見(問題づくり)
理科の学習において,学習の初めの問題の発見の場面でどのような自然の事象に出合い,どんな問題意識を持つかは重要なポイントです。出会わせる事象は,(1)児童・生徒が今までに獲得した知識や経験とは,矛盾するような意外性のある事象,(2)複数の事象を比較することにより,既習の知識との間にずれが生じる事象等,「何か変だな」「不思議だな」「どうしてそうなるのかな」など,児童・生徒の知的好奇心を喚起する事象を提示することが大切です。問題の発見の場面は,簡単な観察や実験からスタートすることが効果的です。
(2)主体的(能動的)な学習
今までの問題解決学習では,6段階なり8段階なりで行われてきましたが,問題発見から結論までが形式化され,児童・生徒を決められた路線に乗せて引率していく学習が行われることがあります。主体的な学習では,児童・生徒が問題をしっかり把握して,自分たちの力で協働しながらも試行錯誤して,少しずつ問題解決に向けて進めていくのが本来の姿であると思います。もちろん,教師の指導が適切に行われてこそ可能な学習であります。
(3)協働的な学習
協働的な学習は班や学級全体等で実施され,内容は観察・実験等の体験活動と話し合い活動があり,交互に行われます。協働的な学習は児童・生徒の科学的な思考力や知識・技能等を高めるとともに,友達と知識や概念を造り上げる方法や協力する精神も学習します。
(1)観察・実験等の活動
観察・実験等の活動がいつも単線型ではなく,ときにはグループ毎に観察・実験の方法が異なる複線型にして,児童・生徒の意欲や主体性をより高めることも大切です。
また,観察・実験の妥当性を高めるために,観察の視点や計測方法等を適切に指導する場面が必要ですし,観察・実験の結果の数量の統計的な処理方法も話し合いの中で指導するとよいでしょう。児童・生徒は,自分の役割を果たしながらチームとして協力して,問題を解決するための適切な結果を求めて観察・実験を行う能力も身に付けたいものです。
(2)話し合い活動
理科においては,問題解決学習の各段階で話し合い活動があります。しかも,仮説(予想)を立てる,観察・実験方法を考える,観察・実験結果の解釈等の各段階で話し合いの内容が異なります。しかし,話し合いの内容で共通しているのは,事実の情報交換や,解決の方法の話し合い,事実から何が言えるか(解釈できるか)等であり,これらは全て自然事象を根拠にした話し合いであることです。どの児童・生徒も話し合いに参加でき,主題を深めるために知恵を出し合い協働できる能力を身に付けたいものです。
(4)汎用的能力の育成
汎用的能力は,「学修者が能動的に学修することによって獲得する,認知的,倫理的,社会的能力,教養,知識,経験」等を言っていますが,理科では,(1)科学的に思考・判断し行動できる能力,(2)学んだ知識・概念を社会で活用する能力の二点を挙げておきます。
(1)科学的に思考・判断し行動できる能力
科学的に思考・判断し行動できる能力を身に付けるためには,科学の方法を身に付けなければなりません。科学の方法とは,対象の実態を明らかにし,科学的認識に到達するために必要な「探究の方法や手段」を指しています。この方法は,問題解決学習を繰り返し経験することにより身に付くと考えます。理科では探究する対象が自然ですが,対象が社会や数学,技術等の場合も探究の方法や手段はほぼ同じであり,汎用的な能力と言えます。
(2)学んだ知識・概念を社会で活用する能力
もう一つの理科における汎用的能力は,学んだ知識・概念を演繹的に活用して社会生活を向上する能力です。理科で獲得した知識や科学的な方法を駆使して,身近な生活の中で新しい知識や概念を獲得したり,知識や科学的な方法を適応して物作りをしたりすることにより,社会生活で活用できる実践的な能力を身に付けることができます。この演繹的に活用する能力は,他でも応用できる汎用的な能力になります。
ALで期待されていることは,概略以上の内容であると思いますが,既に日頃の授業において実現できていることが多いかと思いますが,新しいねらいや内容,方法等が入ってきていますので,研究し吟味することも意味あることかと思います。(Y・H)(2015年7月10日)