教育研究所
No.464「みとたね」(2015年9月9日)
連日35度を超える猛暑が嘘だったように秋は足早に訪れ,北海道では紅葉の便りが聞こえ始めました。小・中学校では,新学期が始まりはつらつと学習する児童,生徒に溢れていることと思います。
理科の植物教材は,4月以来の発生~成長~開花からいよいよ結実の内容に変わりつつあると思います。結実の学習を進めるために,基礎的・基本的な内容を振り返っておきましょう。
植物は結実することにより,種子を残して次の世代に遺伝子を継続させていきます。ところで,話をスムーズに進めるために,ここで言葉と文字を整理してから次に行きたいと思います。「み,実,たね,種,果実,種子」等の言葉が使われますが,ここでは,「み,実」は「果実」と呼び,「たね,種」は「種子」と呼ぶことに整理して進めることにします。
結実の学習でしばしば混乱が見られるのが,果実と種子の関係です。「果実」は単数又は複数の「種子」を内蔵するものと定義しておきます。果実と種子の関係では,種類よって違いがありますので次に数種の例を挙げてみます。
(1)リンゴ(バラの仲間)
リンゴの例では,1個のリンゴは1個の果実であり,1個の果実の中に複数の種子を内蔵しています。中心にあるいわゆる「りんごの芯=子房に当たる」の中に種子は複数入っています。
(2)アサガオ(ヒルガオの仲間)
アサガオの場合は,1個の青い果実を横に切ると部屋が3室あって,1室に種子が2個ずつ入っています。計6個の種子があることが普通ですが,養分が不足したりすると5個や4個に減数します。
(3)ヘチマ(ウリの仲間)
ヘチマの大きな果実は1個の果実です。横断すると部屋が3室あり,各室に多数の種子があります。
(4)ヒマワリ(キクの仲間)
ヒマワリの果実と種子の関係は少し複雑です。1個の大きな花から1000個以上採取できますが,採取したものは種子ではなく果実です。そのわけは,果実と花の関係にあります。1個の果実は1個の花(1個のめしべ)が成長・変化したものです。リンゴやアサガオ,ヘチマは1個の花(1個のめしべ)から1個の果実ができました。ところが,ヒマワリの花は1000個以上の花から一つの「花に見えるもの」ができています。1000個以上の花(1000個以上のめしべ)があるので1000個以上の果実ができるのです。あの縞状の種子に見えるものは果実であり,皮をむくと1個の種子が出てきます。ヒマワリの場合は,種子ではなく果実の状態で保存され遺伝子を継続することになります。
(5)オランダイチゴ(バラの仲間)
私たちが食するオランダイチゴの表面を注意深く見ると,たくさんの粒々が見えます。この粒々が1個ずつ果実です。小さな果実の中に1個の種子があります。では,多数の果実を付けていて,私たちが食べるおむすび型の果汁たっぷりの部分はなんでしょうか。それは「がく片」や「花弁」を付けていた花の台に当たる部分です。花の台がおむすびのように成長して果実を押し上げたのです。
(6)裸子植物の果実
マツやスギ,イチョウ,ソテツは裸子植物と言われますが,何が裸なのでしょうか?
種子が裸です。果実がないので保護する果皮がなく,種子は裸のままです。少し臭いのある黄色いイチョウの「実」は果実ではなく種子です。もちろん,種皮はありますが種子を保護するものはありません。しかし,マツやスギ,ソテツにはわずかに保護するものがあります。マツボックリを思い起こしてください。マツボックリにはたくさんの鱗片状のものが付いています。種子はその鱗片状の物の中に挟まれて保護されていますので,全く裸ではないのです。しかし,リンゴやアサガオ,ヘチマのような被子植物のように果皮に包まれて手厚く保護されていません。裸子植物が出現してきたのは約3億年前,被子植物が出現してきたのは約1億5千年前,その差は約1億5千年ありますから,進化の差は大きいと言えます。
以上,6種類の果実と種子を観察しましたが,種子植物の果実や種子は種類によって形や構造が違います。その違いを見つけ記録するといいですね。さらに,子孫を残すために雌の卵は雄の花粉を受精し,果実や種子をつくるしくみは共通であることを見つけることです。その過程で児童・生徒の生物を科学的に観察する目と観察結果を解釈する科学的な思考力を育てるとよいでしょう。秋のよい時期ですから気楽に校庭に出て,観察してみてください。(Y・H)(2015年9月9日)