教育研究所
No.469「使っている鍵はいつも輝いている」(2015年10月1日)
高等学校の現職教師のころ,敬愛する校長が,ことあるごとに生徒たちに語り続けていた話がある。
「『The used key is always bright.』と言いますが,人間として輝き続けるためには,常に努力し続けることが大切です。今の自分に満足することなく,向上心をもち仕事や研究に打ち込んでいる人の姿は,私たちに尊敬の念や感動を与えます。
使われることのない鍵はいつの間にか錆びて用をなさなくなります。
学校で身に付けた知識や技能を,学校生活は勿論,家庭や地域社会で大いに発揮して,社会に貢献したり,自分の人生に活かしていくことが『その人の持つ鍵』の本来の生かし方であるといえるでしょう。」
と,多くの実例を引き話されていた。
8月3日.『これからの社会に求められる資質・能力』をテーマに,「第44回教育展望セミナー」が開催された。パネルディスカッションのパネリスト松下佳代京都大学教授の提言がとても印象に残った。
松下先生は,21世紀に求められる能力の普遍性と時代性について,これからの社会の予測から,学校教育に求められる「新しい能力」についての考えを述べられた。
冒頭に,キャシー・デビットソン(米デューク大学の研究者)は,2011年のインタビューで「今年,入学した小学生の65%は,今はまだ存在していない仕事に就くことになるだろう」と語ったこと,また,ヨルゲン・ランダース(ノルウェービジネススクール教授)は,著書『2052(今後40年のグローバル予測)』の中で,これからの地球社会は,資源の枯渇,環境汚染,気候変動,貧困や富の分配の不公平,経済成長の停滞など,悲観的な未来を予測していることを例示した。
これからの21世紀の社会は,テクノロジーの進歩のスピードが早すぎて,人間がそれに追いつけない段階に達して,事務的な仕事は機械がとって変わり,複雑なコミュニケーションや専門的な思考,分析等を要する仕事が増えていくことになる。
このような背景から,学校は,これからの時代に対応できる「新しい能力」を育むことの必要性とともに「変化への希望をもって教育」にあたって欲しいと話された。
「新しい能力」の特徴のひとつは,中身の幅が広く,知識・技能の認知的側面だけではなく,態度,感情などの情意的な側面や対人関係などの社会的側面も含まれている。
これは,『to know とto do』ということで,単に知っているだけでなく,それを必要な場面で活用して実践できることが重視されている。これからは,人々が何かを行うとき,自らの力を発揮して,一緒にやってくれる人たちと協力しながら,人生の様々な局面を切り開いたり,困難を乗り越えていかなければならない時代となるからである。
最後に松下先生は,「これからの学校は,このような時代性は無視できないけれど,能力の普遍性を見据えながら子どもたちの成長を長期的に捉える眼差しをもって教育することが,教育者としてできることではないか」と語られた。
私の敬愛する校長の教えと松下先生の言葉が,心に響いた教育展望セミナーであった。(H・H)(2015年10月1日)